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まるで地獄絵図のようだった。 人々の悲鳴や怒号が響き渡り、それをかき消すかのように大きな爆発音があちらこちらで鳴っていた。 逃げ惑う人、 泣き叫ぶ人、 血を流し倒れている人、 半狂乱になっている人。 息をしていない人。 真っ赤に染まった地面はどれほどの人々の血を吸っているのだろう。 皮膚が焼けた臭いと、火薬の臭いと、血の臭いと。 様々な臭いが充満して、熱気も熱くて、息をするのが辛い。 上空の空はどんよりと曇っており、この惨状を覆い隠そうとしているようだった。 あの方が殺されて、戦争が始まった。 戦争によって、美しかったこの国は変わってしまった。 あの方ともう二度と会えなくなってしまった。 あの手を離さなければ、この美しかった国を守れたのに。 あの手を離さなければ。 『あなたともう一度笑いあいたかった』 血の気の引いた真っ白な顔、乾いた唇、冷たくなった手足。 何度も脳裏に浮かぶその姿。 「メロスリア様…!」 叫ぶように声を張り上げるが、渇いた喉からは掠れた声しか出てこない。 その叫びは、阿鼻叫喚の嵐の中、誰かに届くことはなかった。 嵐のような一夜が過ぎ、五人は集まった。 誰の顔にも表情はない。 顔は煤で汚れて、所々怪我しているものもいる。 それでも誰も何も言わなかった。 絶望することに慣れてしまっていた。 集まったのは学校の裏手にある小屋の中。 目の前にはこの古びた小屋に似つかわしくない大きな機械。 「ヒビス…行けるか?」 ある男の子が聞いた。 「…大丈夫。これで過去を変えられるなら」 握りしめた拳はわずかに震えていた。 女の子が私の元に近づいて、耳元を触った。 「これで、飛べるから。 それと、危険を察知したときには知らせてくれるはずだから」 耳には白い大きなイヤリングがついていた。 「ありがとう」 四人の技術者に対して、頭を下げた。 「ううん、それを言わなきゃいけないのは私達の方だよ」 女の子は私の体を抱きしめた。 「絶対、絶対、絶対。 生きて帰ってきてね。 そうじゃないと、許さないから」 彼女は泣いていた。 私も釣られて泣きそうになるが、必死にこらえた。 「じゃあ、行ってきます」 私がイヤリングを触ると、男の子が機械を作動させた。 機械音は次第に大きくなり、私の体を光が包みこんだ。 温かな光だった。 一瞬のめまいの後、私は意識を手放した。
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