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水平線からのぼる満月が綺麗だった。私は自転車をとめた。濃紺の海には月の道が細長く映っている。穏やかな波の音が耳をくすぐって、私を浜に誘う。光景に心を奪われて、私は空気を吸い込んだ。潮の香りが身体をまとう。
月の光に導かれるように、砂浜へと続く階段を降りた。寄せる波は渚を白く縁どり、また海に帰っていく。さざなみは私の心を洗い流してくれる。私はゆっくりと息をはいた。
努力は実を結ばない。何も結果に繋がらない。それでも頑張るしかない。もがく意味も分からなくなる。
砂浜は私の足をとらえて歩きにくい。スニーカーに砂が入り込んで気持ち悪い。そんなことはもうどうだってよかった。
砂に沈む足を踏みしめて波打ち際に向かった。月の道が私の方へまっすぐ伸びている。
「西條さん」
波の音を掻き分けて、私の名前が聞こえた。振り向くと、こっちに向かって歩いてくる人が見えた。階段を降りた時は海ばかり見ていて気が付かなかった。近付いてきて月明かりに浮かんだ顔は、去年同じクラスだった東雲くんだ。
「東雲くん、なんでいるの?」
「オレの方が先にいたんだけど」
「え? どこに」
「階段の壁のところ。オレが先にいたら、西條さんが降りてきたんだよ」
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