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00.Sa Revendication;推しの主張
二丁目、坂下。環状線沿いに佇むオープンカフェ。
ペンダントライトよりも主張の強い西日がメニューに反射する。
「えっと。じゃあ、ラパンブレンドで」
——土色じゃないか。
メニューを差す指の色にげんなりする。急いでスーツの裾をそれに被せ、彼を見上げる。
注文票を携えながらペンを滑らせる御手は、石鹸のCMに起用したいほど綺麗だった。もちろん一就活生にそんな権限はないけれど、なにより、いつ見ても切り揃えられている爪が非常に尊い。
「あの、」
「……はい?」
ああ。ついに視線に気づかれてしまったか——。
生まれつきの凛々しい眉を持ち上げて、私は白々しく首を傾げる。
いつもなら「かしこまりました」と柔らかい低音が響くタイミングなので、想定外の展開に私の心臓は大槌を叩いていた。
「推しです。付き合ってください」
「——へ?」
私の心臓は、ついに止まってしまうかと思った。
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