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伝えたい想い
ルカと会った翌日、僕は父さんに話を切り出した。
『吸血鬼の友達か。まあ、俺も魔女を嫁に貰った男だしな。驚くことでもないが』
『僕のチョコ、どうだった?』
『旨かったよ。母さんとのことを思い出した』
やっぱり…
『…僕、ここにいてもいいのかな』
『当たり前だ。おまえは俺の大切な息子なんだから、何も心配しなくていい』
『でも、僕が魔法使いだって知れたら…』
お店に迷惑をかけたくなかった。
僕も父さんの作るお菓子が大好きだから。
父さんは僕の頭に軽く手を乗せた。
『おまえはまだ11だ。専門の学校へ進むまで時間はある。魔法を選ぶのも放棄するのも、おまえの思うように決めればいい』
ずっと怖かった。
母さんが魔女だと聞かされた日から、僕は得体の知れない不安に囚われていた。
あの優しい母さんが…
そして僕にもその血が流れている。見た目は人間でも、僕は怪物と変わらない存在なんだ。
僕をその呪縛から解放してくれたのはルカと父さんだった。
『たとえ魔女でも俺は彼女を愛してるし、おまえたちの大切な母親であることに変わりはない』
そうだ
母さんは母さんだ
いつだって優しくて 幸せそうだった
『彼女と過ごした時間は、俺のいちばん大切な記憶だ。セナのおかげで思い出した。ありがとな』
いつの間にか大人の意見に惑わされていた。
周りに何と言われようと、自分の中にある母さんが全てだ。
チョコレートに想いを込めていた母さんの眼差しは、あふれるほどの仕事への矜持に満ちていた。
『皆が笑顔になれるといいわね』
僕の頭を撫でてくれた手の温もりと優しい声。
それから僕を抱きしめたルカの体温と、レイを思い出して流した涙。
それを知ることが出来た僕は幸運だった。
魔法使いの道を選び、つらく苦しい日々もあったけど、どん底まで落ちてはいない。
二人がいつも、僕を支えてくれたから。
ルカ 君に会いたい
幸せだって伝えたいと思うのも
悪くないだろ?
それは君のおかげなんだから
どんなにつらくても幸せな記憶があればまた明日も頑張れる。
自分がそうだったように。
だから、僕は今日もチョコレートに願いをかける。
皆の笑顔を守るために。
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