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天つ風~いつか、自由に~
空を、風が吹いていく。
あれからどれほどの月日がたったのだろう。
「いま、迎えに行く」
軋む身体にむち打ち、男は一歩、足を前へ踏み出した。
旅装はくたびれ、草鞋はもう残骸が足に纏わりつくのみ。
それでも男は一歩、また一歩と足を進めていく。
その先にきっと、あの方がいるのだと信じて。
あの方とは偶然に知り合った。
市で、態度が気に入らないと追いかけられ、ほとぼりが冷めるために隠れた屋敷にあの方はいた。
「くせ者!
誰か!」
男を見つけた女房が鋭い声を上げる。
人がいたのか。
しかも、それなりの身分の。
しくじった、そう悟ったがもう遅い。
「よい」
御簾の向こうに人影が見えた。
貴人としてはらしくなく傍へ寄って外を見ているようで、御簾の下から美しく重なった着物の裾が覗いている。
「しかし」
奥から出てきた女性に制され、女房が不満の声を上げる。
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