過去に繋がる今

10/17
3826人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 「いいんだよ。愛嬌を振りまくのは別な意味で余計な仕事が増える。俺の立場上も慎みが必要だ」  意地の悪い笑みを浮かべ笑っている。  「どこに行くの?」  「そうだな。フレンチなんてどうだ?」  「そんな……この間鍋焼きうどんを作った私にそれを聞く?でも連れて行ってくれるんだったらどこでもいいわ」  「ああ、歩いてすぐだ。よく家族で使っているところだから、すぐに予約が取れた」  私の手を握る。こんなこと初めて。驚いて顔を見る。  「ダメか?」  「……玖生さん」  「今が攻めどきだろ。違うか?」  私があっけにとられているのを面白そうに見ている。    フレンチレストランは素晴らしい内装。食器。テーブルセッティング。何もかもが一流という雰囲気だった。  玖生さんの顔を見ただけで、支配人が現れ、丁寧にお辞儀する。  奥にある個室へ通された。  「ワインでいいか?」  「ええ」  支配人と玖生さんが打ち合わせているのを呆然と眺めながら、美しい調度品に囲まれたこの部屋にも目が吸い寄せられた。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!