4.物語の結末は

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身体を重ねるたび、倖大は抱き心地が良くなる。それは肌と肌が馴染む感覚であったり、流れるようにお互いの願望を読み取る瞬間に感じたりする。 なによりも開発途中の身体は打てば響くような反応が返ってくるし、ときには期待以上の反応をみせることもあって、抱くのが楽しくて仕方ないのだ。 俺が楽しくなってからかい過ぎると、倖大は言葉で反撃してくる。 『シャンプーとボディーソープよく間違えるくせに』とか『廊下の角に足の指ぶつけまくってるくせに』とか。見てきたように俺の情けない部分を指摘するから問いただせば、前のアパートは風呂場も壁が薄かったのだと目を逸らして白状した。 変な言い訳だったが、こいつにも罪悪感とかあったのかと変なところに驚いた。俺だって倖大のプライベートを独占しているから、自分のことを観察されていても何とも思わないけどな。 それに―― 俺はブラインドの隙間から陽光が差しこむ広い寝室を見渡した。一面だけ夜空色になっている壁。中心にはキングサイズのベッドが鎮座していて、くしゃくしゃのシーツの上に俺たちは横たわっている。 反対側のドアを抜ければ、今度はグレーのアクセントクロスが特徴のもっと広いリビングルームがある。 いまはもう、一緒に暮らしているのだ。ひとりのときは住むところの良し悪しなんて全く気にしていなかったけど、恋人と一緒なら話は別だ。 住み心地のいい巣を用意してなんの疑問も持たずそこに収まってもらって、すべてを俺の目に見えるところに置いておきたかった。 そんな自分をさらけ出しても受け入れてくれる倖大の存在は、俺にとって一生手放せないほどの貴重な、得がたい宝物だ。
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