1.壁越しの饗宴

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1.壁越しの饗宴

「あっ……くぅ…………んんっ」 隣の部屋から男の押し殺した声が聞こえる。声色は甘い。ついでにベッドもギシギシ言っている。 壁の薄い安アパートは、さまざまな音を通す。テレビの音、掃除や洗濯の音……自慰に耽ける音。 隣に住むのは金髪にピアスをつけた派手な学生の男だ。真面目なサラリーマンを絵に書いたような俺とは遠い世界の人間。 別にわざとじゃなかった。 おそらく俺たちは、壁ごしにベッドが隣接している。俺がここへ越してきてすぐの夜、彼の声が聞こえてきたのだ。 切迫した声に苦しんでいるのかと、思わずインターホンを押した。たとえ勘違いだったとしてもいい。手に持ったお菓子は取引先に貰ったもので、引越しの挨拶用にも見えるだろうと思って。 ガタッと物音がしたあと、沈黙が続き、しばらくしてドアが開いた。もう少し遅かったら無理にでも安否を確認しようと考えていたんだが…… ――彼の顔を見て、俺は察してしまった。 熱を出したみたいに顔を赤くして目は潤み、首筋に薄っすらと汗をかいている。半袖に短パン姿は、部屋着としてはなんの違和感もない。でも、彼から漂う壮絶な色香に俺は当てられてしまった。 (あ、これ完全に邪魔しちゃったパターン……) 間取りは左右が違うだけで俺の部屋と同じだ。狭い廊下の先、部屋の中に人けはなかった。 そっか、彼はひとりで……。そう思い至った瞬間、自分の中心に熱が集まっていくのを感じた。 まてまて、こいつは男だぞ!?しかし反応してしまったものは仕方ない。俺は慌てて彼にお菓子を渡し、簡単な挨拶だけした。 「変な時間にごめんね。これから隣だから、よろしくお願いします」 「あ……よろしく、お願いします……」 引っ越しで忙しくて抜いてなかったからとか、彼女と別れてもう何年とか……言い訳はあとだ。 俺は自分の部屋に戻ってすぐにスボンを下ろし、股間に手を伸ばした。 ――それ以来、隣から声が聞こえてくるたびに俺は彼をオカズにしてしまうようになった。 俺は声を出さないが、彼は抑えきれない。それが可愛くて、普段のちょっとチャラい感じの姿と、あの日見た……エロい姿とのギャップを何度も脳裏に思い描いた。
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