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 ちょっとした飲み物や軽食は、その部屋にも準備されていて、二人はダンスとおしゃべりで渇いた喉を、さっぱりとした果実水で潤しながら、腰を落ち着けて話をすることにした。  ジェニーは、辺境から出てきた娘を装って、王都の煌びやかさや流行の店のことなどをやや大げさな身振りで話した後、さりげなく女子寮の騒動に触れた。 「王都はにぎやかで楽しい場所もたくさんあるけど、物騒なことも多いってローズが言ってましたわ。女子寮でもおかしな事件があったって、とても心配していました。確か、ディアナ様も関わっていらしたのですよね?」  ディアナは、わざとらしく音を立ててグラスをテーブルに置くと、少し挑戦的な目になってジェニーを見た。だが、それは一瞬のことで、たちまち穏やかな表情に戻ると、田舎者を哀れむように言った。 「あの件は、事件ではなく事故だったということで、すでに解決しているの。ローズったら、困った人ね。刺激の少ない辺境住まいの人に、面白おかしく話してしまうなんて――」  明らかにディアナは、話題を変えたがっていた。  だが、鈍感な田舎娘になりきったジェニーは、ディアナの言葉を無視することにした。 「ジュディス様とシオドーラ様が、朝から図書室でお勉強をする約束をしていたそうですね。なかなか来ないジュディス様をシオドーラ様がお部屋へ呼びに来た。すでに、図書室へ行ったことをローズが伝えると、彼女は図書室へ戻っていった。それから、二人を心配したあなたがローズの部屋を訪ねてきた。そうしたら、シオドーラ様の悲鳴が聞こえてきた」 「そうよ、そんなところ――。わたしが図書室へ行くと、書架から落ちた本の下敷きになったジュディスの前に、シオドーラが立っていたの」 「どうして最初に図書室へ行ったとき、シオドーラ様は先に来ていたはずのジュディス様に会えなかったのでしょうか?」 「あなたはご存じないかもしれないけれど、女子寮の図書室は広いし、古い書架が迷路のように置かれていたの。行き違いになっても、何の不思議もないわ」 「そうかもしれません。でも、名前を呼ぶ声が聞こえれば、行き違うことはないと思います。シオドーラ様は、ジュディス様のお名前を呼ばなかったのでしょうか?」  ジェニーの言葉を聞くと、ディアナは目線をテーブルに落とし、何か考え始めた。  その様子を注意深く見守りながら、ジェニーは話を続けた。 「シオドーラ様は、ジュディス様の名前を呼んだのだと思います。でも、ジュディス様は返事ができなかったのでしょうね。二人よりも先に図書室に来ていた犯人によって、返事ができない状態にされていたから――。眠り薬をかがされたか、本でなぐられたかして、小部屋のどれかに隠されていたのでしょう。 いくら探してもいないし、名前を呼んでも返事がないので、シオドーラ様はジュディス様を部屋へ呼びに行きました。その間に犯人は、ジュディス様を小部屋から引きずり出し、その上に近くの書架の本を思い切りぶちまけました。 犯人は急いで図書室を出て、どこかの物陰から、シオドーラ様がローズの部屋を訪ね話をした後、図書室へ戻るのを見ていた――というのが、真相なのではないでしょうか?」 「図書室の小部屋のことまでローズから聞き出したの? お暇な方ね! 事故として片付けられたことを事件として蒸し返し、どうしても犯人を断罪したいわけね。あなたのような辺境住まいの方が、縁もゆかりもない王都の女子寮でのできごとに、どうしてそんなに関心を持つの? 何か理由があるのかしら?」
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