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梨奈と付き合い始めてから季節が一周して、僕らは将来のことを考え始めるようになった。
彼女の父親は世間で有名な、あの白石コーポレーションの代表取締役社長だ。そして家族会議の結果、次女の梨奈が跡を継ぐことになっている。
梨奈はとても素直で可愛らしいけど、物怖じせず合理的な部分もある。彼女にその器があるのは、僕も認めるところだ。
今年のお正月に、白石家に挨拶に行った。
大事な跡取り娘に手を出した身としては、緊張する以外の何物でもなかったが、予想していたよりも和やかに迎え入れられて、僕は心の底からほっとした。
『白石コーポレーション!?』
その流れで実家に電話をすると、母さんの声が裏返った。僕はしどろもどろになりながら簡単に説明した。
「そこのお嬢さんと、その、付き合うことになって。ゆくゆくは、多分、婿に…」
『何でそんな…。え、まさかデキちゃったとか』
「そ、それはないと思う。…多分」
『あんたが社長になるの?』
「いや、会社を継ぐのは彼女だから」
『そうだよね…』
僕に社長なんてとても無理だ。
せいぜいナンバーツーで補佐役がちょうどいい。
さすがに親はよくわかっている。
梨奈は会社では僕の後輩だ。
入社直後の新人研修の時から、並々ならぬ負けん気と才能を発揮している。ウチの部署に配属になって、僕もずいぶん助けられた。
梨奈は容姿もいいので、社内の男性の誰もが狙っていた高嶺の花だった。飲み会で酔った同僚に絡まれた彼女を、僕が助けたことがきっかけで仲良くなった。
取り立てて有能でもイケメンでもない僕に、なぜ彼女が惹かれたのかは未だに謎だ。
だけど、会社ではキリッとしてるのに、僕の前では素直に甘える彼女は可愛かったし、その無邪気な笑顔をずっと守りたいと思っていた。
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