最終話

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最終話

 私は眠ったチェルに、この話が聞こえないよう魔法をかけた。彼から何を言われたとしても、私とチェルのパパはシシだけ。  ――それは揺るがない。 「これは一体どう言うつもり?」 「王家の血を引く僕の子供だ、連れて行くに決まっているだろう」  その、ルールリア王太子殿下の言葉にシシの魔力が高まっていくのがわかる。この場所てシシが魔力を放ったら、この人達は怪我だけじゃすまない。 「いいえ、決まっていないわ。それに私達は彼の力がなければ……今ここにいない!」 「彼だと? 彼とは誰だ!」 「シシ、私と子供の旦那様よ。この子はあなたより、彼に似ているわ」  私の側による、フェンリル姿のシシを見たルールリア王太子殿下は、ハッと鼻で笑った。ロローナさんと同じ行動に思うことはあったが、表情と行動に怒りを出ない。 「それは、大きなタダの犬だろう? 似るわけがない」 「バカにしないで! シシは犬ではないわ」  シシのふくらんだ魔力を気をつけていたのに、いまの発言で私の魔力が漏れてしまい、ルールリア王太子殿下と周りの騎士達を吹っ飛ばした。  マキロ森の木々がミシミシとしなり、魔力を含んだ鋭い風が森を駆け抜けた。もう一度、アーシャが怒りで魔力を溢れさせたら、森の一角がなくなるとシシは慌てた。 「アーシャ、僕は2人がいてくれれば、どんな事を言われてもいいよ――落ち着くんだ」 「ダメよ、許せないわ。シシだって私と同じで、魔力を貯めていたじゃない……私は愛する人を、ひどく言うあの人を許せない!」  はじめは魔力を貯めはじめた「シシを守らないと」と思っていたのに――形勢逆転。シシが、魔力を放出した私を宥めはじめた。 (何故か分からないのだけど……ロローナさんの時は我慢できたけど、この人が言うのは許せなかった)  木々に体をぶつけ、うめき声をあげる彼を見つめた。 「ヒィ――ッ、許してください」 「アーシャ様はやはり、危険な存在だ」 「このバケモノめ!」  よくも口々に言えたもんね、あなた達はこの力に守られて来たのに。それをバケモノだと言うなんて、やっぱり……私のやってきた事を知ろうとはせず、あなた達は遠目で見ていただけ。   「……アーシャ、帰ろう」 「ええ、その傷は聖女ロローナ様に治してもらってください。愛し合う、お2人のお子様の方が今までにない、力を持つと思いますわ」    ――偽聖女と、ダメ王太子とかね。    さっき彼女が持っていたランタンの空っぽのカケラに、私の魔力を詰めておいたのだ。――いまその魔力を使い、ロローナさんが馬車の中から、彼らの傷を癒したかのように癒しの力を使った。  ――それはまるで、聖女が起こした奇跡にみえた。  その奇跡の魔法のおかげでキズが治り、体の痛みがひいたルールリア王太子殿下達は、彼らを吹き飛ばした私を怯える表情で見つめた。 「アーシャ嬢、……む、無理を言ってすまなかった。王家の血を引こうが、こんなバケモノとの子など要らぬ! こちらには聖女ロローナがいる、アーシャ嬢のバケモノのような力は必要ない」  怯えながら言う、ルールリア王太子殿下。  もう一度、その力にあなた達は守られてきたのですよ。と……言いませんが。   「バケモノのような力は必要ない? ……そうですか、わかりました。――シシ、帰りましょう」   「ああ、帰ろう」  私はチェルを抱っこしたままシシの背に乗り、マキロの森を後にして隣の町の温泉によって、まったり家族と温泉を楽しみ、カサロの森へと帰った。    久しぶり帰ってきた我が家と、旅の終わりに。  フウッと息を吐き、ソファに座り休む私にチェルを抱っこしたシシは。 「アーシャ、あの男が父さんと母さんに、何かするかもしれない。手紙で一言言ったほうがいい」    と伝えた。――シシのいう通り、あの人なら抗議の手紙か、今回への文句、怪我に対しての慰謝料請求をしてくるかもしれない。 「わかったわ」  私はすぐ両親へ「何処かに身を隠して欲しい」と。  今回のことを、事細かく手紙に書き送った。すぐ戻った手紙に――今、古代魔法都市ローカへ、旅行に出る準備中だと書かれていた。   「まあ、シシ聞いて。お父様とお母様は魔法の本に載っていた、古代魔法都市のローカへ旅行に行くんですって」 「古代魔法都市ローカ? ああ、アーシャが前に送った本がそれだったね。確か、古代魔法が残る都市だったね」   「ええ、壁画に残っていたり。魔導書、ダンジョンの中、古代魔法が残っていると、その本に書かれていたわ」 (魔法と研究好きの、お父様とお母様はその都市へ行ったら、しばらくこちらへ帰ってこないわね。旅行かぁ、――そうだわ、私たちも険者ギルドで遠出のクエストを受けて、みんなで旅行へ行けばいいじゃない)  さっそくこの提案を、シシに話してみる。 「旅行かぁ〜いいね。今回の旅の食料、備品が残っているから、すぐにでも旅へ出れるね」    翌日、冒険者ギルドに出向き。隣国との栄えにある、サーロン遺跡調査のクエストを受けた。期限は1年もあり、家族でのんびり遺跡調査が出来そうだ。 「チェル、ナナちゃんに遺跡調査に行くって、手紙を書く?」   「うん、書く」   「1年近く遺跡調査かぁ。のんびりできるし、面白そうだ。――危なくならないよう、ちゃんとアーシャとチェルは守るからね」  私は「はい、頼りにしてます」と頷く。  それは、まだ。この国のほかの森に多少なり瘴気が残っている。ロローナさんに聖女の力をあてにしても、彼女に聖女の力はまったく無い、と言うより魔力がない。 (調べてみたけど……驚くほどなかった)  瘴気が祓えず、あの人達が困ろうとも知らない。  2度と、私はあの人達のために魔力は使用しない。    私の魔力は家族の為に。  優しく、頼もしいフェンリルパパ、シシのため。  可愛い我が子、チェルのため。  大切な、両親のために使用するの。
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