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陽美乃はゆっくりと回復し普通のお肉も食べられるようになった。一緒に眠り、ブラッシングをしてもふもふする毎日が戻ってきた。
「君って最高のもふもふだね」
『ぬしがブラッシングばかりするからじゃろ』
ルーチェは暇さえあれば陽美乃にブラッシングをするか、撫でまわすかしている。だが、それだけが理由ではないとルーチェは思う。
「もともとすっごくもふもふだった気がするけど?」
『そうであったか?』
「そうだよ。大きな毛玉が落ちてるって思って拾ったら息してたんだもん」
あの日もぼろぼろで薄汚れていたと懐かしく思い出す。その大きな毛玉とこんな関係になるとどうして想像しただろう。
『毛玉とは失礼な奴じゃ』
陽美乃はくつくつ笑って、ルーチェの手を甘噛みする。
「毛玉は訂正するよ。最高のもふもふだもんね」
『訂正されておらん気がするのだが?』
「気のせいだよ。今日はどうする?」
陽美乃は小首を傾げる。
『店の手伝いをしてもよいか?』
「どうやって? 君ってもう変化できないんでしょ?」
『メニューを運ぶくらいはできると思うんだが、ダメか? 注文も紙に書いてもらえばわしがぬしのところに持って行ける。以前ほどは役に立てぬが……』
ルーチェは思わず陽美乃をぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう。うれしいよ。身体はもう大丈夫?」
近頃、ご飯はしっかり食べているし、ふらつくこともなくなってきたが、心配だった。
『もうなんともない。下で撫でられるだけの暮らしも飽いた』
日によって陽美乃はクッションを店の隅に置いてもらって眠っていた。その際、客が撫でていることも少なくない。客層がまた徐々に変わり始めたのも気のせいではないだろう。
「そっか。ならお願いするね」
『うむ』
ルーチェは陽美乃が咥えやすいようにメニューに紐をつけ、首から下げられる小さな袋を用意した。テーブルごとに注文を書くための紙を置き、入り口に狐が注文を承りますと貼り紙をした。
「さぁ、お店を開けよう」
ドアベルがカランコロンと元気に鳴った。
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