2杯目

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まず最初に荷物を持ってくれた礼をするあたり、育ちがいいんだなと桐谷は感心した。 身長160センチの紗弓と180センチの桐谷では20センチの身長差があるから、桐谷が紗弓を見おろす形になる。 至近距離で見る紗弓の瞳はさらに破壊力を増した。 あまりの綺麗さに吸い込まれそうになる。 本人にはまったく自覚がないようだが……。 内心では激しく動揺していたが、桐谷はつとめて冷静に挨拶を返した。 「桐谷です。よろしく」 「紗弓ちゃん、まずはよく髪を乾かしてください。着替えが済んだらコーヒーを入れますから、ひと息ついてくださいね」 ゆっくりでいいですからとマスターに言われ、紗弓はカウンター奥の従業員控え室に入って行った。 マスターはカウンターの中に戻り、桐谷と紗弓のためにコーヒーを淹れる動作にうつったが、桐谷はしばらく呆然としていた。 「マスター、バイトはとらないって言ってなかったか?」 長い足を組み、カウンターの椅子に腰掛けた桐谷は美しい所作で作業するマスターの手元を見ながら言った。 「この店の雰囲気にぴったり合う人がいなければ、と言いました」 マスターの一言に、桐谷はすぐに納得した。
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