ネクタイのお礼は夜明けのコーヒー

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「あ……。 しまったな、これじゃパワハラのうえ、セクハラだよね」 少し赤い顔で、課長がボリボリと首の後ろを掻く。 「他意はないんだ。 ただ、これのお礼がしたいだけで」 ちょいちょい、とその長い指が、ネクタイをつついた。 「でも、月橋(つきはし)が嫌なら、無理にとは言わない。 それこそパワハラでセクハラだからね」 神妙に課長が頷く。 こういう真面目なところが、私の憧れだったりもする。 「じゃあ。 ……はい」 「本当か!?」 課長が少し、こちらへと身を乗りだす。 「はい」 「よかった!」 ニカッ、と課長が笑い、口元から真っ白い八重歯が零れる。 それはとても眩しくて、つい目を細めてしまった。 洗面台の鏡に映る私は憧れの夜城課長から食事に誘われて、いつになく明るかった。 それを見て、みるみる気分は萎えていく。 「……勘違いしちゃ、ダメ」 これは、ただのお礼なのだ。 じゃなきゃ誰が、こんな冴えない女を誘ったりするだろう。 『うわっ、勘弁! どうやったらそんな勘違い、できるんだよ!?』
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