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きっと一食分、このネクタイよりも高い。
「ん?
それだけ僕は、嬉しかったから」
課長の注文を聞き、仲居が下がる。
「嬉しい……?」
どういうことなのか、さっぱりわからない。
課長なら他の女性からも、プレゼントをもらっていてもおかしくないのに。
「今日はいろんな人に自慢したくらい、嬉しかったんだ」
おしぼりを置き、俯き加減になった課長が、ちらっと上目で私をうかがう。
「えっと……」
なんでそんなに嬉しいんだろう。
たかが、ネクタイごときでこんな。
すぐに仲居が、日本酒のセットを運んできた。
「まずは、一杯」
課長がお銚子を差し出すので、おちょこを掴んで受ける。
そのまま彼が手酌で自分のおちょこへ酒を注ぎはじめて、慌てた。
「あ、あの!」
「んー?
いいの、いいの」
夜城課長は笑っているが、心の中では気が利かないなどと思っているんじゃないかと、肩身が狭い。
「じゃ、お疲れ」
少しおちょこを持ち上げ、くいっと一気に課長は中身を飲み干した。
「もしかして日本酒、ダメだった?」
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