くちづけスノウアンサー

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くちづけスノウアンサー

 冬の冷たい鬱陶しい雨が続く日々、昼休みに牛乳をストローで、ヂュー。と飲みながら、うな垂れて。視線の先に居る相手が、あまりに綺麗な顔立ちで童顔なくせに「撲るぞ」「蹴り倒す」などという言葉が口癖なのだから、色々世の中って理不尽だな。奈月はそう思い、ぼんやりとついこの間の休日を思い出した。  あれは、友人と映画を観に行ったことから始まった。ラブロマンスなんていうものは奈月の柄ではなくて、断ろうとしたときに映画のチケットを見せられて目にしたのは、クラスメイトの家永逸陶そっくりの俳優だったのだ。思わず見てしまったときは烏龍茶を噴き出し、ガン見していたが、そのお相手のヒロインがなんと自分に。つまり、奈月そっくりで、今度はチケットを手にして破りそうになった。  なんということはない。彼とは委員会の仕事で同じなくらいで、話すことも必要最低限だった。確かに顔立ちが綺麗だなとは思っていたが、直ぐにトゲのある暴力発言をするところは気にくわなかったし、本当に、綺麗な花にはトゲがあるどころじゃないよ。そう思っているほどで、距離を置いていたがゆえに、奈月は彼とはただのクラスメイトでしかない。それ以上でもそれ以下でも何でもなかった。  しかし、最近になっていきなり家永が自分を見てくる回数が増えたことに、疑問を抱いていた。え・ニキビ出来てた? とミラーをチェックしても出来ていないし、じゃあ・鼻毛出てた? とミラーをチェックしても出ていないし、何なの本当、と思えば、クラスメイトに「家永くんと並んでみて!」と言われることも増えており訳がわからなかったのだが、やっとそのチケットを見てわかったのだ。自分は、話題沸騰中のラブロマンス映画のヒロインにそっくりで、家永はそのヒロインの王子様のような存在である恋人にそっくりだった。これで一緒にいる時によく写真を撮られるようになっていたのか、と世間の流れに疎い奈月はようやくそこで理解した。
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