一匹狼

3/38
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/146ページ
 リムーバルはイギリス国の脅威となる人物を排除する組織である。戦争が終わった今、国家の狗として俺には新たな任務が課せられたのだ。 「アルダートン、こいつを捜し出して抹殺しろ」  取り調べ室の様な窓の無い部屋で金属の机を挟んで座り、俺は上官であるマイルズという爺に一言だけ告げられた。こうやって任務を言い渡されるのは何度目か分からないが、馴れというものはない。というより、最初から馴れるほどのことでもなかったのだ。  俺は、冷静に黒いファイルを受け取り、一人で任務を遂行するだけ。最初から、ずっとそうだ。軍と何ら変わりはない。  国の誰から命を受けているのか分からないが、上官から指令を受け、人を殺す。これの何が戦争と違うのか。規模か? 「ジェラルド、また、犬を見に行くのか? 懲りねぇな」  部屋を出ると後ろから声を掛けられた。明るい雰囲気だが、こいつがちょっと厄介だ。 「はぁ……、なあ? シェパード、俺の心を読まないでくれ」  振り向き、話し掛けてきた栗色の髪の男に見える様に、俺はあからさまに大きな溜息を吐いた。  身長は俺より少し低い一メートル七十五センチ前後、陽気な性格、三十代前半の少し整った顔立ちのこの男、実は厄介な能力を持っている。  見た目では分からないが、この男は人の心を読むのだ。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!