第8話『浜辺と修行と温泉と…』

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ー ミサカ会合の部屋 ー 同日午後5時。放課後、訓練室に向かおうとしていた雪乃はネロに呼び止められ、指示通り付いて行くと、ミサカ会合が行われる部屋に通された。 初めて来る薄暗い部屋に雪乃が恐る恐る足を踏み入れると、ネロは扉を閉めた。 「え?ネロさん?」 「すまないが、今から行われるミサカ会合に召集されたのは雪乃のみだ。僕は階段の下で待っている。」 扉の向こうで答えたネロは、そのまま階段を下った。ネロが階段を下りていく足音が聞こえた雪乃は 、状況を全く理解出来ずに不安と恐怖が入り混じった気持ちになり、身体を震わせながら部屋の中をゆっくりと進んだ。 すると、七角形の角に座るミサカの7人をスポットライトのように照らす明かりがパッと灯った。白い法服に動物の面を付けている不気味な集団に、雪乃は思わず「ヒッ。」と声を出した。 「白波瀬雪乃だな。」 トラの面が質問した。 「は、は、はい。そ、そうです。」 「そんなに怯えなくて良い。」 キツネの面が優しく言った。雪乃はその時にキツネの面の存在に気が付き、近寄って頭を下げた。 「あの、昨晩はありがとうございました。」 「…何、『火』は雪乃ちゃんと接点ある感じぃ?」 ヘビの面がいつもの口調でからかうように言った。 「私は白波瀬雪乃を失うことは得策ではないと判断したため。私の判断が誤っていたとでも?」 キツネの面が言い返した。 「まぁまぁ、2人とも。今回の本題はそこではない。『火』が白波瀬家と繋がりがあることは百も承知であり、接点があることに不自然なところはない。」 ウサギの面が言った。 「確かに『月』の言う通りかと。早速本題に入りましょう。」 モグラの面が賛同すると、トラの面が頷き再び口を開いた。 「白波瀬雪乃。お主は白波瀬家のルーツと、ゴーストがこのセンシアに攻め入ってくる理由を既に聞いているな。」 「は、はい。」 「率直に言う。白波瀬雪乃、お主は危険因子である。」 「…危険分子?」 「簡単に言えば、良くない結果を招く可能性がある要注意人物ということだ。」 サルの面が説明した。 「お主のゴーストの浄霊に関してはミサカの皆が認めておる。しかし、注意しとくべきこともあるということだ。」 「…私の何が危険なんですか?」 雪乃はトラの面に向かって質問した。 「…ゴーストの生成。」 ネコの面がボソリと言った。 「『金』の言う通り、白波瀬家が滅亡の道を歩むことになった最大の要因だ。」 「あなたにゴーストの生成の能力があるかないかの見極めがまだ出来ていないのよ。」 トラの面に続いてウサギの面が発言した。 「白波瀬雪乃、お前にゴーストを創り出す力は備わっているか?」 キツネの面が質問した。 「…ゴーストの生成の話はききましたが、私にはそんな方法も分かりませんし、そんなつもりもありません。私はゴーストの元になった霊体を清らかな気持ちであの世に送りたい、ただそれだけです。」 雪乃は7人に対してしっかりとした口調で説明をした。 「…熱いな。逆に怪しい。」 ネコの面がボソリと言った。 「…怪しいって、そんな。」 「『金』、言い過ぎだ。私は今の言葉に嘘は感じなかった。」 モグラの面が雪乃のフォローをした。その発言にネコの面とヘビの面以外が頷いた。 「…年寄りは騙されやすいな。」 またネコで面がボソリと言った。 「『金』!年寄りという言葉は撤回しなさい。ミサカの個々の情報は与えてはならない掟だということを忘れたか。」 サルの面が強い口調で言うと、ネコの面は「…撤回します。」とだけボソリと言った。 「あのさぁ、私が怪しいと思ってるのはさ、姉貴がさっき殺人鬼として捕まったんでしょ?その妹だよ、それに尽きるっしょ。」 「…え、姉?殺人鬼?…何の話?」 雪乃はヘビの面の発言に戸惑いを隠せなかった。すると、バンッと机を叩き立ち上がったキツネの面がヘビの面を指差しながら発言をした。 「『水』!そのことは伏せておく約束だったはず!」 「何でぇ?重要なことだと思うんだけどぉ。」 ヘビの面は微塵も反省の色は見せなかった。 「やめい!『火』、落ち着きなさい。そして『水』、お主は約束事を撤回する場合は事前に議題にしてから発言すること。よいな?」 トラの面の言葉に、キツネの面は腰を下ろした。ヘビの面はペコッと頭を軽く下げた。 「白波瀬雪乃、今の発言についてはお主に不快な思いをさせたことについては申し訳ない。姉の情報については不透明なことだ、忘れなさい。…『月』。」 トラの面がウサギの面に振ると、ウサギの面は雪乃に自分の方を向くように指示した。雪乃が顔を向けると、ウサギの面はゆっくりと面を鼻の上まで下ろした。露出したその目でジーッと雪乃を見つめ、雪乃と目が合った瞬間に目を一瞬赤く発光させた。 「…『日』、完了した。」 ウサギの面はそう言うと、面を元に戻した。 「ご苦労。白波瀬雪乃、本日お主と話が出来たことは非常に大きなことであった。だが、危険分子かの判断はまだ時期尚早であると判断する。いかがかな?」 「引き続きミサカとしても監視を続ける必要はあるかと。」 トラの問い掛けにサルの面が答えると、皆が頷いた。 「本日はこれにて終いにする。白波瀬雪乃、戻ってよろしい。」 解放された雪乃は、最後にキツネの面にペコリと頭を下げると部屋を後にした。階段を下りるとネロが待っていた。 「おかえり、雪乃。ミサカから何かおかしなことを聞かれたりしたか?」 「…ううん、別に。ゴーストの生成の力があるかって聞かれただけ。勿論無いって答えたけど。」 「…そうか。」 雪乃の頭の中には、姉の話をされた記憶が一切残っていなかった。何かを感じ取ったネロは、階段上の扉をじっと睨み付けた。
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