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「返事は?」
「……へ?」
「口のきき方すら忘れたか?」
「……え……いえ、はい……。分かり……まし……た」
「分かればいい。今の返事、二度と違えるな」
仮にも違えたならば命はない――まるでそう言われているかのようだ。鋭い視線も艶のある黒髪も、恐ろしいほどに男前の顔立ちも堂々たる体格も、嫌味なほどに似合う高級そのもののスーツも、街灯を映し出して輝くばかりに磨き抜かれた漆黒の革靴も――何もかもが鋭い切先を思わせるような風貌にガタガタと全身が震えて総毛立つ。まるで今にもその背に真っ黒い烏の羽が生えて羽ばたくような錯覚にとらわれる。
この世にもしも悪魔がいるというなら、今目の前にいるこの男こそがそうなのではと思わされるほどだ。
三春谷は、生まれて初めて触れてはいけないものに手を出そうとした報いの恐ろしさを体感したかのような気分に陥った。
鐘崎が踵を返していく様を瞬きひとつ儘ならないまま見つめていた三春谷の身体が、遠ざかる足音と共にヘナヘナと崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
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