椎名くんは驚かない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、彼氏の椎名くんが呟いた。 「どうしたの?」 「こんなところに、神社あったっけ?」  椎名くんが指差した先にあったのは、建立から千年以上経っているかのような色褪せた鳥居と、その先に見える苔むした階段だった。おそらくそこを登っていけばやっぱり古びたお社があるんだろう。 「あったような、ないような……」  学校からの帰り道だ。いつもの通り道なのに、何故かこの社の記憶は曖昧だった。  鳥居を見上げると、夕陽に照らされた姿が神々しく煌めいているように見えた。 「せっかくだからお参りしてこうか。俺たち、受験生だし」 「うん。そうだね」  椎名くんの言う通り、私たちは高校三年の受験生だ。一応、二人とも同じ大学を志望している。  特に宗教に熱心なわけではないけれど、神社を見ると合格祈願したくなるセンシティブなお年頃。軽い気持ちで鳥居をくぐって、石段の左右に置かれたキツネの石像の前を通り過ぎた。  その時だった。  コーンとキツネの鳴き声が聞こえたような気がして、私の体が金縛りにあった。
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