19

6/8
261人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
「このクソ女! 日本人形が偉そうに! 瑠璃をこんなとこに閉じ込めて…早く出せよ!」  入室してきた途端に厚いアクリル板を叩きながら叫ぶ瑠璃は当然、以前のような化粧や露出度の高い服を着ておらず、街ですれ違っても気づかないのではと思うほど様変わりしていた。とても質素で、地味だ。瑠璃の嫌うだろう格好。 「私に決定権はないもの。もちろん出せないわ」 「入れたのが間違いって話じゃん! ほんっと頭悪い! ああもう…離してってば!」  突っかかって喚く瑠璃は脱走などの予防のためとあっけなく看守に押さえられた。 「…で? 何しに来たの?」  仕方なく椅子に腰かけた瑠璃が傲岸不遜に言う。腕を組んで足も組む横柄な態度だが、装いが囚人服なだけあってまったく偉そうに感じない。むしろ哀れみすら湧く。 「私の部屋を荒らすよう命令した理由が聞きたいの。当時は大雅さんがやったとばかり思っていたけれど、西川さんの犯行なら動機がわからなかったから」  もちろん警察から一応聞いてはいる。たがもしかしたら警察には言いづらい事情があったのかもしれない、夕顔を恨むに至った正当な理由があるのかもしれないと念のため聞きに来た。 (理由があるのなら、出所してからも狙われるかもしれないもの)  今後の身の安全のためにも聞いておく必要があった。 「はあー?」  背筋を伸ばして浅く腰かける夕顔とは対照的に、だらっと両肘をついた瑠璃は素っ頓狂な声を出しながら眉間に皺を寄せた。そんな顔をしていたら小皺が増えそうだが、いいのだろうか。 「別にー? 金持ちのお嬢様ってなんかムカついただけ。…こんなのわざわざ聞きに来たわけ?」  ムカついただけでお母様の形見まで切り裂かれてしまったのか。怒りが湧いた。同時に安堵も。瑠璃を中途半端に許さなくて良かった。とことんやれとの冬樹の言は間違っていなかった。握った拳をゆるめて、また握ってを繰り返す。 「そうだわ、ついでに新聞を差し入れようかしら。お暇でしょうから」 「は? 新聞なんか……え?」  暇人扱いされてわかりやすくイライラし始めた瑠璃へ、新聞を広げて見せる。読まないのに、とさらに逆ギレし始めていた瑠璃は、夕顔が指さした小さな見出しを読むなり、ひょっとこのように潰れた間抜けな顔になった。 「大雅が…?」  絶句する瑠璃を残して席を立つ。  形見を繕えないほどズタボロにした理由には腹が立ったが、それほど浅い理由なら執着されることもないだろう。  これでようやく、他人になれた。出所しても夕顔たちのところへ報復には来ないだろう。安心して未来へ進むことができる。不愉快なものを聞いてしまったものの、夕顔の足取りは軽かった。 「あ、こら逃げんな! 出せ! 出せってば!」  背後からヒステリックな怒号が飛んできても、もう振り返らずに外へ出た。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!