第27章 雷鳴の夜

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どきどきしながらこわごわと尋ねると、彼は全く嬉しそうじゃない真顔で正面を向いたままこくん、と頷いた。 「そう。…最初はそんなことない、俺たちは友達同士だし。って頑張って無理やり自分に言い聞かせてたけど。だんだんごまかしとか効かなくなってきた」 「えっと、じゃあいいじゃん。お互い独身だし、今は決まった相手もいないわけだよね?二人とも」 少なくとも、そういう特定の人は今現在いないとは明言してたよな、今日レストランで話したとき。無論わたしの方にも恋人や婚約者の類いは綺麗さっぱり存在しないし、してた過去もない(…よね?)。何の障害もないんじゃないかな、現状わたしたちの間には。 だけどどういうわけか、彼は頑として首を縦に振ろうとはしない。 「いや、そういうわけにはいかない。俺たちは何たって歳が離れすぎてる。七つも違うんだよ?それに君はまだ二十歳にもなってない。未成年じゃないか」 犯罪だよ、と重々しく呟かれて思わずきょとんとなり頭を傾げた。 集落じゃ高校在学中に子どもが出来て結婚しちゃう人たちも割といたから、全然ぴんと来ない。さすがにそれはあの土地独特の慣習だろうってことはわかるけど、でも。 「え。…そうだっけ?よく知らないけど、日本の法律で成人年齢って十八じゃなかった?それに、結婚だって。確か男女とも二十歳になる前にできるよね?そっちも規定は十八歳以上でしょ?」 わたし、もうとっくに超えてるよ。と下からその顔を上目遣いに覗き込んで問うと、高橋くんはその近さに慌てた様子で視線を外してしどろもどろに答えた。 「あ。…そうだったね。いや、少し前までは成人は二十歳だったんだよ真面目な話。そういえば、十八で成人に法改正されるってのは知ってたけど。もうとっくに変わってたんだよね。あんまり普段関係ないからさ、ちょうどその年代の子って純架が来るまで俺の身近にはいなかったし。…ああ、でも。カンちゃんがいたかぁ…」 結婚も両性とも十八からか。以前は女性だけ何故か十六からOKだったんだよね、昔の感覚ってさぁ微妙に謎だよね?と変なところでつくづくと感心してる。いやだから、そうじゃなくて。 「わたしはもう十九だから。現行の日本の法律では普通に大人でいいんでしょ?まあ日本国民じゃないけどさ、正式にはまだ。高橋くんはもちろん歴とした大人だし、二人とも別に誰にも憚ることなく付き合えるじゃん。それとも、七歳離れてると大人同士でも法律違反とかあるの?なんか不便そう」 当然日本の法に詳しいわけじゃないから。そういう決まりがあるんだよって言われたら、そうですかって答えるしかないが。 納得しかねてしきりに首を捻ってたら、彼はごまかし気味に何度か咳払いをしながらごもごもと弁解した。 「法律がどうとかじゃなくてさ。…なんか、フェアじゃないよ。純架に不利過ぎる。だって君、こっちでは俺以外に味方も頼れる相手もいないだろ?」 「そうかなぁ。…そうかも」 神崎さんもいるし。…とは思ったが口には出さない。確かに、高橋くんとは関係性の重さが違い過ぎるか。 いくら神崎さんがフレンドリーで親切でも、高橋くんレベルにわたしのことを何よりも当然のように優先してくれるとは思わない。でも、だからと言って。 「高橋くんのことでどうしても困ったときに相談する相手ゼロとまでは思わないし。そもそもあなたが、そこまでわたしのことを本気で苦しめたり悲しませたりするわけないじゃん。だから、受け入れられないことは直接あなたにそう言うし。それもできないほど追い詰めてくるような人じゃないからなぁ…」 「純架は過大評価し過ぎだよ、俺を」 やや呆れた声でそう突っ込んでくる高橋くん。 「いざとなったらよく知ってると思ってる相手でも、どんな風に変貌するかは予測がつかないもんだと思うよ?もしかしたら純架のことを好きになり過ぎてとち狂って、俺と付き合わないとこっちでの居場所がなくなるよとか。集落に戻りたければ言うことを聞けとか卑怯な脅しを使うかもしれないだろ。てか、俺のことだから。はっきりそうとは言葉にしないで、ただ伝わるようにそれとなく匂わせて、言質を取らせずに素知らぬふりしてるだけかも…」 自分でそれ、言っちゃうのか。 「まあ。…高橋くんほどの人が他人と駆け引きするときに、あからさまに脅しをかけたり言葉尻を捉えられるような下手打ちそうな気はしないし。本気でやればそりゃ、至極洗練されたスマートなやり口でそれとなく相手を自分の思うように動かせるってのは確かに、解釈一致ではあるよね。…いや、現実にあなたがわたしにそういうことしそうとは。別に考えてはいないよ?」 ふと彼がわたしのその台詞に何とも言えない悲しげな表情になってるのに気づき、慌てて途中でフォローした。 自分のそういうとこ、意外に気に病んでるんだなと思うと不思議。どちらかと言えば有能さの表れだから、誇りに感じてるのかと思ってた。てか、普通誰でもそんなの羨ましいと考えるよね。接してる相手のほとんどを快く思わせてそれとなく転がせる特性。
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