第27章 雷鳴の夜

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第27章 雷鳴の夜

「…そういうわけで。俺としては純架に対して特別な感情を持ってる、なんて事実。自分でもどうしても今、認めるわけにはいかないんだ」 「…はぁ」 そんなこと訥々と打ち明けられても。と、わたしは彼が今さっき展開してきた論理の組み立てを何とか理解しようと努めつつも、頭の回転がどうにも追いつかなくて。ただ唖然となって曖昧な声を出すのが精一杯だった。 なんかよくわからない、けど。…さっきまでちょっと絶望しかけてめげてたわたしにとっては。起死回生の新たな事実が開示されていきなり光が見えてきた。って場面なんじゃないの、これ? とは思うもののどうにも実感が持てない。ので、何ともはっきりしない探るような口調にならざるを得なかった。 てか、そもそも。…何で現在形なんだよ、その台詞?普通は過去形で『認めるわけにはいかなかったんだ』でしょ?え、ちょっと待って。 思いがけない事態で上手くまとまらないぐらぐらぐらする頭で必死になって考える。…つまり、この期に及んでもまだ。『俺から君への思いを認めるわけにはいかない』、の? 「えーと。よくはわかんないんだけど、…高橋くんの気持ちとしては。あの、わたしのことはまるっきり女性として問題外とか。恋愛対象としては金輪際絶対見れない、ってわけじゃないのね。ってことで、解釈間違ってない?一応それで合ってる?」 何言ってんの、そんなこと全然言ってないじゃん。どうして今の話でそこまで自惚れたの?とか呆れられたらどうしよう。とばかりに腰が引けた態度で恐るおそる確認する。ありがたいことに高橋くんは、わたしの隣で布団の半分に潜り込んだまま生真面目な顔でこくり。と頷いてくれた。 「うん。そういうことになるね」 まじか。 「えと、じゃあ。…わたし、高橋くんのことを好きになったりしてもいいの?これから。もしかして、ちょっとは未来に希望ある?」 何となくだけど、話の流れとしては彼の方もわたしのことを憎からず思ってる。みたいな風に聞こえたから。もしかしたら案外わたしたち両思い?とかどぎまぎしつつ、これでも最大限遠慮気味に抑えて表現してみたつもりだったのに。 意外にも彼は難しい顔つきで即答を渋ってみせた。 「うー、ん。…今すぐどうこうは。やっぱり、無理だとは思うし。そういう意味ではお勧めはしかねるかな…。さすがに」 「何だぁ」 わたしはあからさまにがっかりしてため息をついた。 「わたしのことそういう目で見れないんでしょ?って訊いたらごめん、って謝ってたのを取り消してくれてるのかと思ったのに。じゃあ望み持ってもいいのかなと普通考えるじゃん。だったら何で今、集落を出てきて以来あなたがずっと迷ってることわざわざ打ち明けたの?わたし、さっきの説明から何を受け取ればよかった?」 「うん。…だから、つまり。俺が純架のこと何とも思ってないってのは誤解だよって。それだけはちゃんと伝えたかった」 彼が言い終わるか終わらないかのタイミングで再び、ぴしゃん。と雷鳴が響く。さっきのよりは少し遠い気がしたけど、それでも反射的にひゃ。と呟いて身を縮めてしまう。つい彼の方にじり、と肩を寄せたから服越しに身体の片側が触れちゃったけど、高橋くんは拒まなかった。 そのまま布団の下で二人して身体をぴったりと寄せ合ってしばし互いの体温を感じたあと、彼はふと我に返ったように口を開き、言葉を選びつつさらに説明を続けた。 「純架がそう思い込んだままにしといた方がいいのかな、とあのときは思ったんだ。だってどのみち今は、俺は自分の気持ちを表に出すわけにはいかないから…。けど、二人きりでこうしてそばにいると。なんか君にあえて嘘ついてまでして隠しごとしてるのも違うなって思って」 気のせいか、彼の方からもこっちに腕を押しつけてきてるような。柔らかな寝巻越しに思いの外ごつい筋肉を感じて、わたしは半分上の空で彼の話に耳を傾けながらその肩にそっと頬を寄せた。 「今の俺は純架の気持ちに応えるわけにはいかない。けど、この思いが全くなかったことになるのもやっぱり嫌だ。だから、この先俺たちがどうなるとしても。俺の今のこの正直な気持ちだけはやっぱり知っておいて欲しいかな、と」 「うーん。だから、そこがまずよくわからない」 嬉しい、幸せな展開のはずなのにこのもやもやは何なの。と頭を抱えてわたしは訳もわからず呻いた。 「そもそも、高橋くんの正直な気持ちって何?わたしのことを異性として見られるよ、でも付き合いたくないし付き合う気もないってこと?前半はまあ、お前にも魅力がないこともないんだよっていうフォローなのかもしれないけど。後半の部分いる?どうせわたしの気持ちに応える気がないんだったらさ…」 「いや違う、君が俺にとってちゃんと女性だってことが話のメインてわけじゃなくて。…特別だってこと。他の、これまで出会ってきたどんな女の人とも違うよ。純架だけだ、こんなの」 淡々と平板な声で冷静に告げられたけど。…なんか、思ったよりもかなり重要なこと言われてないか、これって? 「それ。…高橋くんもわたしのこと好き。ってこと?もしかして」
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