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「受精卵が子宮内膜に到達して、着床するまで約七日です」
保健体育の時間に教えられた、人間の妊娠の仕組み。
教室の中は照れや冷やかしの混じった含み笑いも微かに漏れてはいたが、健の意識は「七日」の一点に集約されていた。
七日。
みゆきが現れて消えるまでの期間だ。
あれはみゆきが望に、……新たな魂を持つ人間になると決まって、実際になってしまうまでの時間だったのだろうか?
日に日に大きくなる母のお腹に触れて、耳を当てて。
己のもとにやって来る弟か妹を待ち望んでいた。
正直なところ、「みゆきに会える」よりもただ生まれ来る存在が楽しみだった。兄になる自分が。
しかし、産院で生まれたばかりの妹を「のぞみちゃんよ」と見せられた瞬間、健の頭を過ぎったのは「みゆき」だったのだ。
彼女にも健自身にも、まるで似ていないくしゃくしゃの顔の赤ん坊なのに。
あれ以来ずっと、健は「姉」のことは誰にも話してはいない。
もしこの先口にすることがあるとしたら、その相手は望でしかありえないだろう。しかしそれさえも、今の健には現実味が薄かった。
「ふたりのひみつ」があってもいい。たったひとつだけの。
──みゆき。望が君じゃないのはもちろんわかってる。だけど、……あの頃の君と重なるのは許して欲しい。僕は望を愛して守るよ。君とは互いにできなかった分まで。
~END〜
中学生の健。
おかさんのフリーイラスト集https://estar.jp/novels/26088131/viewer?page=14よりお借りしました~(*'▽')
表紙イラストと同じです。
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