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「――それでさ、俺はこんなにマジだったのにあっけなく浮気されて捨てられたってわけ」
〝親友〟というポジションに違和感を覚えつつもずっと傍らに居続けたその男は、屋上で大の字に寝そべってぼやいた。
僕はその隣に体育座りをする。
本当なら足元に伸びる手を握ってあげたいなんて言ったら、キミは僕のことを気持ち悪いって思うだろうな。
それに、キミが振られて実は喜んでいるなんて言ったら、気持ち悪いどころか最低な奴って思われて縁を切られるかもしれないね。
「僕には何も出来ないけどさ、久しぶりに会ってみたら? 一緒に立ち会ってあげるから。いつもそうして来たじゃん」
「そんなのガキの頃の話だろ?」
キミはいつの間に大人になったのかな。
隣にいるキミはいつだって僕の中では幼くてやんちゃだったあの頃のまま、成長したんだかしていないんだかって思っているって言ったら、今度は怒り出すかな。
「ガキでも大人でも、こういう時することって一緒なんじゃない?」
キミは黙ってしまった。
僕にはわかるよ。
久しぶりに会う準備をしているんだよね。
ほら、もう耳に届いてきた。
キミが静かに鼻をすする音。
キミが久しぶりに会えた音。
僕はいつだって何度だって傍らでキミがそれに出会う音を聴いてきたし、それは嬉しかったり悲しかったり、どんな時でも一緒に聴いてきたんだ。
ねぇ、どうかこれからも僕にだけ立ち会わせてくれないかな。
キミがいつも久しぶりに会う涙のそばに。
願わくば、いつか〝親友〟じゃないポジションで。
キミの手を握れる距離で。
-END-
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