理想と現実

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相変わらず都古の方を見る気配のない伊吹に、 「イブくん。私の水着、選んでくれるんじゃないの?」 「……」 「私がどんなの着ても、イブくんには興味ない?」 都古は畳みかけるようにして訊ねた。 「……! そんなわけ――」 慌てて反応した伊吹が咄嗟(とっさ)に顔を上げて、水着を試着したままの都古を視界に捉える。 現在の都古は、白色のカシュクールタイプのブラとミニ丈の巻きスカート付きのビキニ姿で、 「えっ……か、かわっ……」 いつもはダウンスタイルにされているストレートロングの黒髪も、今は着替えの邪魔になるからとシュシュで無造作にアップにされていて、それが余計に特別感を演出していて。 「可愛い……!」 伊吹の口からその一言を引き出すには、あまりにも簡単すぎた。 都古だけを見つめる伊吹の青緑色の瞳はキラキラと輝いていて、 (あー。これ、眼中から消されてるな、私) 伊吹のすぐ隣に突っ立っているだけの風香が、心の中で苦笑する。 しかし、都古だけしか見えていないのかと思いきや、 「ミヤ! 他の男も見てるから、早く扉閉めて、制服に着替えて!」 他の男性客が彼女を見る視線には敏感なようで、伊吹は慌てて都古を試着室の奥に押し込んで扉を閉めた。 「ちょっと! まだミヤちゃんに着てみて欲しい水着があるのに!」 風香がすぐ隣からブーブーと文句を垂れたが、 「ミヤは何を着ても似合うし可愛いので。ミヤの気に入ったものでいいと思います」 伊吹はつーんとそっぽを向く。
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