理想と現実

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――そして、放課後。 駅近くのショッピングモール内の催事場を、期間限定の水着売り場として展開しているその場所に、 「ねぇ、イブくんってば。ちゃんとこっち向いてくれないと見えないでしょ?」 「い、今見たら絶対倒れてミヤに迷惑かけるから……!」 「おうおう、少年。いいねぇ、そのウブな反応。お姉さんまで照れてきちゃうぞ」 都古と伊吹と風香の三人の姿があった。 都古は試着室のドアを開けて、試着した水着を二人に見せようとしていて、その傍には真っ赤な顔をして俯く制服姿の伊吹と、同じく制服姿のままの風香がいたが、彼女に関しては両手に沢山の女性用水着が抱えられていた。 「ミヤちゃん。次、これ着てみて! 黒色のセクシー系ビキニ! ほら、見て! 後ろ、Tバックなの!」 「いや、流石にそれはちょっと……」 「えー。いいじゃん! 試着だけだからさぁ! ミヤちゃんの悩殺水着姿、朝倉くんも見たいよねぇ!?」 渋る都古を説き伏せようと、風香は伊吹へと同意を求めたが、 「ミヤが嫌がる水着は着せないでください、南先輩」 伊吹に鋭く睨み付けられて、 「……ちっ。このカップル、二人揃ってケチだ」 風香は思い切り下唇を尖らせて()ねる。 そのすぐ傍で、 「“ケチ”って、こういう時に使う日本語だっけ?」 ムッとしたままの伊吹が、ズボンのポケットから取り出したスマホで『ケチ』の正しい意味を検索すべく、ポチポチと操作。
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