1.15センチの恋

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1.15センチの恋

「ごめん、無理」 顔面国宝(イケメン)のぼくが、あっけなく振られた。 相手は幼馴染の真実(まみ)。 放課後の昇降口に呼び出して、きみは特別だと告げる。 シチュエーションは完璧なはずだった。 「あんたなんか大嫌い」 彼女はきっぱりと言った。 声は敵意に満ちていて、ぼくを拒絶していた。 なぜ彼女を意識したのか。 遡ること、ひと月前。 ファッション誌でモデルをしているぼくは、「キスがちょうどいい身長差」という特集ページに抜擢(ばってき)された。 相手役を演じてくれた女性は、ぼくの身長に対して理想の15センチ差。 可憐ですごくかわいらしい人だった。 だけど肩を引き寄せた瞬間、思い浮かんだのは気が強い真実の怒り顔だった。 振られたその日も、真実は怒りと軽蔑を込めた目でぼくを見ていた。 真実は、ぼくを正しく傷付けてくれる。 理想の15センチは、とてつもなく遠かった。 この世には2種類の人間がいる。 太陽を見た瞬間にくしゃみが出る人と、出ない人。 ぼくは前者だ。 研究者が書いたインターネットサイトによると、これは「光くしゃみ反射」といい、日本人の約25%しかもっていない生理的な反射だそうだ。 つまり、ぼくは25%の人間ということだ。 少数派というのは、実に気持ちがいい。 「ほかの人とは違う」ってことなんだから。 「個性がある」ってことなんだから。 顔面国宝(イケメン)と呼ばれるぼくにふさわしい言葉だ。 それなのにぼくは、振られてしまった。
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