目覚めと青い炎

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 目を覚ますたび、わたしが誰なのかを探り出す。  顔に触れ、髪の長さを確かめる。手足を動かしゆっくりと身を起こした。  鏡の前のわたしは昨日のわたしと同じだった。 「ああ、今日も変わらず」    それはそうか。  成長過程の子供ならまだしも、30歳を過ぎた女にそこまでの変化は見込めない。  それに毎回姿形が変わっていたら世界が混乱するだろう。  首を回しながら、でもあなたは? と問いかける。  わたしの内側よ。  あなたは変わってしまったの?  それとも昨日を引きずっている?  こんな問いかけをしていると知ったら変人と思われても仕方ない。  だけど時々変化するのだ。  まるで全然違う人のように、わたしがわたしじゃなくなっている。  田辺麻沙子34歳。独身。一人暮らし。恋人はいたことがない。  大学を卒業してから就職が見つからず、そのまま非正規の労働者として生活をし始めた。  いい学校に行けばいい会社に行けるからと言い続けていた両親のがっかりした顔を今でも思い出す。  時代が違うよといったところでわかってはくれないだろう。  あの人たちはバブルまっさかりの人生を満喫してきた人たちなのだから。  そんなことでいい会社に入りそびれたわたしだけれど、それなりにうまく生きていたはずだ。  あいつが上司になるまでは。  
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