00 愚かな者

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00 愚かな者

神が人を創り出し、 人が天使と悪魔の存在を信じる限り限り、 此の無意味な争いは終わらない。 「 外道悪魔共!!何度、この聖なる領地を薄汚い魂で汚せば気が済むのだ!? 」 「 神なんて愚か者を信じる貴様等、お気楽天使ちゃんの目を覚まさせる為さ!! 」 美しく真っ白な宮殿は、両者の鮮血で赤く染まり…。 天使は悪魔殺しの武器を、悪魔は神殺しの武器を手にし、 御互いの信念を貫き通す為に、心の儘に武器を重ねる。  誰が言い始めた争いなのか、もう誰にも分からない。 目障りで神を崇拝する天使が居て、悪魔が天界に踏み込んだから…。 そんな程度で、特に意味も無い争いは何百年、何千年と度々繰り返させる。 「 ほんと、天使って弱いくせに…威勢だけはいいよなぁ〜。何処からそんな自信が出るわけ? 」 離れた場所でも嫌でも届く、仲間が争う声と武器が重なり合う音に耳を傾ける、一体の悪魔。 高身長のスラッとした背中には、足首程迄ある大きな黒い鴉のような翼を持ち、襟足の長いウルフヘアーにエメラルドグリーンの瞳を持った端麗な顔立ちの男は、 目の前で己の技で体中を氷で貫かれてる、天使へと視線を向けた。 「 ごほっ、ッ……黙れ…。御前等が、戦争を…吹っかけなければ…、こんな…戦いも…しない…だろ… 」 「 神…神…神、そんな見てるだけで何もしないような奴の言いなりになってる、御前等にウチのサタン様はお怒りなんだわ。いっその事、全員殺したいほど…らしいぜ 」 「 っ!! 」 持っていた神殺しの剣を引き抜いた悪魔に、天使は目を見開けば、悪魔は背後からの気配に気付き、振り返ると同時に重なった金属音に口角を吊り上げた。 「 やぁ、遅かったなぁ?大天使ヴェリテ 」 「 チッ……魔王リオート…御前の相手は、私がする!! 」 目の前に細い剣を持つ、美しい白い羽を六枚持つ大天使ヴェリテの姿に、 リオートと呼ばれた悪魔の表情は楽しげに変わり、剣を弾けば冷気と共に足元から氷の氷柱を出し、 彼女は其れを器用に避けては交わしきれないものを剣で砕く。 「 俺、女の子を傷つける趣味無いんだけど…。まぁ、サタンが皆殺しを命じたから…仕方ないよなぁ? 」 「 気色悪い事を言うな。貴様に女扱いなどされたくない! 」 落雷を放つヴェリテに、彼は剣を使う事なく片手で其れを防げば、軽く焼かれた手の平を一瞬で再生させた後、一気に距離を取る。 「 ははっ、天使には性が無いもんな。でも俺は、そっちの方が可愛くて好きだぜ 」 「 っ、黙れ! 」 御互いの剣がぶつかり合い、幾度と無く重なり合うと圧倒的な力の差がある為に、ヴェリテは防戦一方となる。 時間など無いこの天界では、争いが数十年と続くことはザラであった。 「 はぁ、っ、はぁ…… 」 「 君だけで防ぐ…か、加戦した低級天使は死んでいったのに。まぁ、上出来…良く出来ました。褒めてやるよ 」 傷だらけで彼方此方から血を流すヴェリテは、震える手でなんとか剣を握り締めるも、一切傷を追ってないリオートは拍手をしながら笑って近づく。 遠くで聞こえていた音も無くなる頃、彼女の手首や足元を氷らせ、身動きを封じた彼は小さな顎を長い爪を持つ手で掴んだ。 「 だから諦めろよ。御前は俺には勝てない…。ふっ…停戦の金が鳴るまで…犯してやろう 」 「 っ…悪魔等に身体を許すぐらいなら…死んだ方がマシだ! 」 「 そう、じゃ…死んでみろよ 」 「 !! 」 ヴェリテの桜色の唇を塞いだリオートに、彼女は目を見開き、抵抗をしてその唇を咬むも、僅かに流れた血ですら一瞬で止まり、傷口は消える。   触れる唇は徐々に深くなり、剣を持つ手に力が入らなくなれば、地面に音を立て落ちた。 リオートは氷を崩せば、神殿の瓦礫の傍へと移動し、白い布を切り裂いては身体を開く。 「 ぁ、あっ、はっ…! 」 「 流石…天使…汚れてないから、何処も綺麗だな 」   色欲の魔王の名の通りに、簡単に大天使の中へと自らの欲を埋めれば、ヴェリテは顔を赤く染め、揺すられる度に其の雄を締め付けてはしがみつく。 「 やめ、けがれるっ、ぁ、あっ…!けがれ、ちゃう、ぁんっ…! 」 「 御前は穢れないさ…それだけ、魂が美しいんだから…はっ…ふ… 」 リオートは言葉通りに、停戦の金が鳴るまで何年も行為を続けていたが、ヴェリテの羽の色は染まる事は無かった。 「 はぁ、ぁん、ぁ、りお、と…ッ… 」 「 ふ……決めた…。ヴェリテ、此の下らねぇ争いを止めよう 」 「 はぁっ…なに、言って… 」 舌先を解き銀の糸を切った彼は、欲を漏らす中から己の熱を引き抜けば、能力で身なりを整えた後離れた悪魔殺しの剣を引き寄せ、彼女の手へと握り締めた。 「 魔王が…一人死なないと、この時代の争いは終わらない…。だから、殺せ。ヴェリテ 」 「 今更…なんで、最強と言われてる御前が…自ら… 」 ヴェリテは自らの手に戻った剣の矛先が、彼の胸元に当たってる事に困惑すれば、リオートは笑った。 「 六千年と少し…生きて初めて性行為で満足したのは、御前が初めだった。だからもう悔いがないから…死んでやる 」 「 ッ……ヤり逃げを、するのか…!散々好き勝手に…私の体を汚しておいて… 」 黄金のような金の瞳が涙で滲むのを見て、リオートは抱きしめると同時に口付けを交わした。 「 っ!! 」 「 俺が出会った中で、一番可愛くて美しかったぜ。最後まで汚れなかったじゃないか…長生きするのは飽きたんだ…。許してくれ…… 」 そっと離れた唇と共に彼女の腕の中へと倒れた、その胸元から背中に掛けて剣は刺さり、身体は灰へ変わっていく。 「 ふざけんな……許さない!何度も、争って来た仲じゃないか…。これからも、私が勝てるまで、挑ませてくれてもいいじゃないか!なんで急に……。答えて、答えてよ……。リオート…嫌だ、御前がいない戦争等、つまらないじゃないか……っ…! 」 六千年前に出会った二人。   少し幼かったヴェリテの方が一方的に、ライバル視を向けていたが、リオートはそれが可愛くて仕方なかった。   何度も挑みに来ては、ボロボロになっても諦めない真っ直ぐな心に…次第に惹かれていた。 けれど、それを伝える事なく、彼の体は消えてなくなる。 「 リオート…… 」 魔王が消失したことで、 今回の戦争は魔界側から休戦の金を響かせた。 涙を流す大天使ヴェリテの羽は、徐々に薄汚れたような灰色へと染まっていく…。 「 御前がいない…戦争など、私にとっては意味が無い……。一緒に死んでやるから…また、一緒に遊ぼう 」 涙を流して微笑んだ彼女は、 自らの首を神殺しの剣で斬った。 六千年を生きた大天使と魔王が失われた事で、今回の戦争は幕を閉じた……。 永く生きる天使や悪魔にとって、戦争は口先だけのものであり、単純な暇潰しでしか無かったのだ。 彼等が信じる神やサタンは 只見てるだけに過ぎなかった。
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