やんごとなき事情故。

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「結局、父さんも泣くのか……」  密鬼は少し呆れて父の肩も抱く。鬼伊太は、そんな密鬼に又更に涙が溢れて。密鬼がそんな両親の肩を抱いたままに。 「全部が今迄の形に出来なかったのは御免。でも、大丈夫だよ。俺が彼方で誠意を見せれば、父さんも母さんも鬼島の家も守られる……離縁の時の誓いだってくれた。考え方は全然違うけど、悪い家じゃ無い筈だ」 「密鬼……」  両親は、結局密鬼に助けられた今が不甲斐なくて。もし、嘗ての如く鬼島家に地位と力があったなら、鬼沙羅魏家をも退けられたやも知れない。だが、其れは空虚な願望。  暗い雰囲気に、密鬼が明るく笑って。 「あっ、聞いてくれよ。俺、此れで友達皆に勝ったんだ!彼氏居ない歴更新も止まって結婚とか、凄いどんでん返しでさ。よくよく考えれば、玉の輿って奴だろう?鬼月なんか、凄く悔しがって、最後には、もう会えないのかって、泣きじゃくって……飲み過ぎて、ふらふらで……」  語る其れは、昨夜婿入り前に友達が密鬼の為に開いてくれた酒宴での事。楽しげに話し出した密鬼であったが、徐々に其の時の光景や友の顔が浮かんで声が震え、掠れ出した。 「俺、皆にも言ったんだ。大丈夫だって……そしたら皆、俺が何処で何になろうと、ずっと友達だって……だから、俺頑張れるよ。絶対……っ」  笑顔を作るも、涙が頬を伝って。鬼伊太と流鬼は、密鬼を抱き締めてやる。もう此れしかしてやれない。其れでも、此の家を出る迄は己等の息子なのだと。 「密鬼。我慢出来ない程辛い事があれば、迷わず逃げて来い。貰ったお前の結納金や物は全部置いとく、俺の給金からも貯蓄する分を増やすつもりだ……此の地獄で職を失くしても、何とか俺達だけで生きて行ける様にな……鬼島だって、曽ては十貴族も逆らえない程の力があった。鬼沙羅魏が何だってんだ。幸い、鬼島を掲げる親戚はもういない……人の世に行っても良い。方法を印す書簡が、ひょっとしたら何処かにある筈だ」  神妙に強くそう告げた鬼伊太の言葉へ、流鬼も強く肯定を示して頷く。 「僕なんか、孤児だったしな……僕に、お前と鬼伊太以外失うものは無い。人の世も面白いかもな」
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