やんごとなき事情故。

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 密鬼の決断により、鬼沙羅魏家と鬼島家の祝言の日取りが即決定された。余程に時を急く様で、密鬼の決断を機に七の日も経たぬ内と。此れも此れで、密鬼が断れぬだろうと既に支度済みであったのだろう。  当然ながら其れは、物凄い早さで今一番旬の話題となりて。当初は、余りの格差婚に何処からかの戯れ言かと。しかし、密鬼の家へ盛んに出入りする鬼沙羅魏家の召し使い等の姿へ、ご近所さんが証言者となった。  仕方の無い事とは言え、婚約を破棄しても受け入れても、もう元の生活ではなくなるのだと。密鬼は、心が凍り付いた様な感覚であった。其れでも、笑わなければ。前を向かなければ。父母の毎日と笑顔を守る為の決断なのだから。 「――密鬼……っ、密鬼……お前って奴は……何で、何で親に、気なんか使……っ」  祝言の日。流鬼は、密鬼の出で立ちに涙を堪えきれず。其れは、上級鬼族にのみ許される裾も袖も長い袍を纏い、幞頭へ髪をおさめた姿。何もかもが昨日迄の息子と違って。流鬼には、体の一部が何処か遠くへ行く様な気がして。其れに加え、便利屋扱いの家へ婿に出すのだから。一鬼としての権利はあるのか、息子を愛してくれるのか。格差故の困難、差別の不安も。  密鬼は、苦笑いで流鬼の肩を抱く。 「泣かないでくれよ、母さん……昨日もあんだけ泣いたのにさ」  そんな密鬼の言葉に、鬼伊太も其の肩を抱いて。 「流鬼。お前が泣くと、密鬼も泣くだろう……そんな顔、俺等に、させない為に、行く……うっ、く……!」  そして、遂には鬼伊太も。やはり、此処迄の格差婚には不安が濃い。現実的な話、ご近所で囁かれるのも良し悪し両方。やたら媚びを売る者も居れば、どう取り入ったのかと妬みに蔑視の眼差しもあったり。だが哀しいかな、其れでも婚約を破棄をするよりはずっと守られた環境なのだ。勿論、富と地位の面でも。当然だが、此の地域には居られない。鬼沙羅魏家が指定する、上級貴族の住宅地域へ転居を依頼されて居るので。
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