やんごとなき事情故。

21/22
171人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
 父母を見詰め、密鬼が涙を拭い笑顔を見せる。 「父さん、母さん……有り難う!」  共に居る時が、尊ければ尊い程に早くに過ぎる。外のざわめきに、其れが終わったと気付かされ。密鬼は、振り切る様に両親より身を離し背を向けた。少し離れて続く鬼伊太と流鬼。表へ出ると、見合いの日に見た立派な火車。其の前に並ぶ鬼沙羅魏家の使い達。進み出た密鬼は、もう両親を振り返る事は無い。恭しく傅く使いへ深い礼を一度して、促された火車の中へ。鬼伊太も流鬼も、涙を堪えて頭を下げて見送る事が精一杯であった。  程無く。密鬼には、見合いの日以来となる鬼沙羅魏本家の屋敷。火車を降りる密鬼を迎えたのは、鬼沙羅魏家の面々。其の出で立ちは、先日見た劉鬼のものと変わらず。今や密鬼とも同じ衣に身を包んで。 「――よく来てくれた。密鬼殿……私が鬼沙羅魏李鬼。現在、此の家の当主と認められて居る。君の理解に感謝したい」  先ずは、現当主の李鬼が。まさか、こうも丁寧に接してくれるとは思わなかった密鬼。恐縮し、深く頭を下げて。 「はっ、初めまして、御当主様……あの、鬼島密鬼と申しますっ」  其の少し離れた後ろに控える二名の鬼が、きっと劉鬼と李鬼の父母。双方、李鬼にも劉鬼にも似た顔だ。父は厳格そうで、母は美しくも何処か憂えげな倦怠を醸す。しかし、一度静かに頭を下げるだけで密鬼へ言葉は無く。そして、同じく李鬼の隣へ控えて居た劉鬼が手を差し出して来た。 「英断に感謝して居る。私が式の手順を説明したい……手を」  密鬼は、息を飲み劉鬼の差し出した手を取る。 「宜しく、お願いします……」  劉鬼に手を引かれ、屋敷内の廊下を進む。何故だろうか、取られる手に汗が滲む様な緊張感。そして、鼓動も高鳴る。通されたのは、見合いの時と同じ部屋。劉鬼が密鬼の手を徐に離し、向き直る。何を言われるのか、密鬼は背筋が凍る感覚に身を正すと。 「――先日は、済まなかった」
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!