ありがちな、ただの恋

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 彼女が先に出て時間を置いて僕も出る。そうしたのは何となくその方が良いと思ったから。彼女はカラオケボックスのガランとしたロビーのソファで僕を待っていた。開口一番に、 「響花ったらね。一週間前に振られたんだよ」  なぜか僕を責めるような口調で言った。 「そうなんだ…」 「付き合っていたカレシに二股かけられてさ。あげくの果てに捨てられちゃって。だから荒れてるの」 「…そうか。でも何でそれを僕に?」 「わからないの?」 「えっ。何を…」 「響花はきみが好きなんだよ」 「え…」 「ずっと前から。気付かなかったの?」 「全然。知らなかった」 「鈍いなあ」 「あっと。でもさ。ずっと前からって、カレシがいたんだよね」   矛盾している。たとえ振られたにせよ、付き合っていた男がいたのだから、ずっと前から想われていたなんて変だ。しかしそんなもっともな疑問は、 「女ゴコロはフクザツなんだよ」    その一言で一蹴されてしまった。
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