雨の日

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雨の日

冬のある日のこと。その日は朝から雨が降っており、街ゆく人達が傘を持ってやや曇りがちな顔をしている。空と同じように、気持ちもどんよりと言ったところか。 夕方になっても変わらず雨は降り注ぎ、靴や鞄を濡らしていく。仕事帰りの私は、鞄を抱えて急ぎ足で家に向かっていた。しかし、家の近くにある踏切に捕まってしまう。 ――カーンカーンカーン…… ああ、こういう時に運が悪い。立ち止まっていても容赦なく雨粒が足にぶつかる。遮断機が下りると、ゆっくりとしたスピードで路面電車が到着した。田舎町の中心地であるここには、路面電車が通っている。都会の電車ほど便はないし、ビル街が広がっているわけではないけれど、そこそこお店もあって人も温かい、住みやすい町だ。何より、私は帰り道で聞こえる路面電車の音と空に輝く夕焼けが好きなんだ。今日はあいにくの雨だけど。 数人が乗り降りした後、ベルを鳴らしながら路面電車が発車した。ふわっとした風が吹き、徐々に遮断機が上がった。一斉に車の往来が再スタートする。私もまた歩みを進めた。 雨が降ると、よく“あの日”を思い出す。少し苦味のある高校時代。今、彼女はどうしているのだろうか?いくら考えてもわかるはずもないのに、私は忘れることのないあの出来事が頭に浮かんでしまうんだ。
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