Make Believe

1/13
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 小刻みにドアを3回ノックする。どうぞと返す面接官の声色に緊迫感があった。この会社の面接官は、元感染者との面接にまだ慣れていないみたいだ。  失礼しますと言って、口角を15度くらい上げてドアを開けた。2人の面接官が横に長いデスクに両肘をつけている。左は禿頭で恰幅がよく、右は白髪頭で華奢。2人とも自分と同じ40代に映った。  2人の間には黒い箱が置いてある。中身は政府が貸し出した拳銃だろう。当たると痛いBB弾を詰めたモデルガンではない。殺傷能力のある実弾を込めた本物だ。  一礼と名乗りを済ませると着席を促された。ビジネスバッグをパイプ椅子の足元に立たせ、自然と背筋が伸びるよう浅く腰かける。  面接管と僕との距離は3、4メートルといったくらいか。普通の面接よりも露骨に遠い。それだけ、再ゾンビ化を警戒しているんだろう。  元感染者として、既に30社以上の面接に落ちてきた。不甲斐ない結果が続いたが、長年連れ添った妻のためにも、今度こそ内定を掴み取る。そのためには、限られた時間でいかに自分自身の安全性と社会復帰の意欲をアピールするかだ。  大丈夫。妻と入念に対策を練ってきたじゃないか。普通の人みたいに振る舞えば良い。  半年ぶりの面接で暴れる心臓に言い聞かせる。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!