あの夜のこと

1/4
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ

あの夜のこと

「これ、起きないね」 「どーする? 誰か家知ってる?」 「聖梨〜起きろ〜」 二次会の場所へ行こうと、店を出る支度をみんながし始めた頃。向こうからそんな会話が聞こえて目をやった。 見れば、見事に聖梨が酔い潰れていて。そんな酔っ払いをどうしようか、作戦会議がなされているところだった。 「槇村、お酒弱いの?」 「普通だと思う」 「さすが。大学もサークルも同じだけあるね」 「……うざ」 今さっき来た篠原は、まだ酒は1滴も飲んでいない。俺の言葉は無視して「二次会行く?」と聞いてきたけれど、聖梨(あっち)が気になって仕方ない。 すると「タクシー呼ぶから乗せよう」と、佐野が聖梨の元へ。高校時代から誰にでも世話をやくようなやつだ。聖梨のことを立ち上がらせようとしている。 だけどそれを見た瞬間に、俺の体は自然と動いていた。 「どいて」 「お、おう」 声をかければ、佐野が聖梨に触れる前に退く。それから「あとはよろしく」と、二次会に行く組をまとめるために店を出ていった。 聖梨の隣にしゃがんで、肩を揺らしてみる。だけどぐーすか寝ていて、全然起きない。こんなところで寝て、無防備な寝顔を晒して、くそむかつく。 「おい」 「……」 「聖梨」 「……ん、」 名前を呼んでみれば、ようやく反応があった。もう1度呼びかけると、「……も、ねむい、」とふざけたことを口にする。 「ふざけんなおい、立て」 「、むり……」 「はぁ」 外ではみんなが待っているから、早くこいつを連れて出なければ。もう、おぶっていくしかないのかもしれない。 篠原と目が合ったけれど、そちらは無視をして。聖梨と同じテーブルだった女子たちに手伝ってもらい、なんとか聖梨を背中に乗せることができた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!