ようこそ 斜岩探偵事務所へ

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ようこそ 斜岩探偵事務所へ

「元来ペットは、我々人間の心を和ませたり愛玩する事を目的とし飼育されるとされています。ペットの歴史は古く、古代エジプトまでーーーー、こうした動物たちはいつしか、共に生活をする事でペットの枠を超えとして受け入れられ、かけがえの無い存在へとーー。」 ピッ。 なんの気無しに見ていたテレビを消すと一気に事務所は静まり返る。 「そんなもんかね。」 消えた液晶に視線を残したまま鼻で笑う。深々とソファーに尻を沈め、もたれた姿勢で天井を仰ぐ。 「あ〜。ひ、、」 いや、違う。別に暇では無い。今日に限っては暇では無いのだ。直に、珍しく予約をしてくれたお客様がお越しになる訳で決してダラダラしている訳では無い。 【斜岩探偵事務所】。 チラりと窓から見える自社の看板に目をやる。 ここは俺が立ち上げた事務所で、『探偵業務から庭の草むしりまで何でもお任せください!』と、いかなる相談も受けるをモットーにした建前上は探偵事務所である。 事務所は小さいデスクに、32インチのテレビ、長テーブルを境に対面ソファーがあるだけの質素な作りになっている。 花でも飾れば少しは彩りが良くなるだろうか。 おっそうだ。とデスクの引き出しをガサゴソと漁り真新しい名刺入れを取り出す。 そこには。 【斜岩探偵事務所  斜木 岩雄(ななめき いわお)】とシンプルな名刺が何枚か入っていた。 「久々の名刺交換になるな。練習でもしておくか。」 まるで新人営業マンの様に、同じ動きを繰り返す。 そんな主人を事務所の入口近く、設置してるコートハンガーの陰から見守るのは一匹の犬。 (もう新人って歳じゃないだろぉ。っておいっ。名刺の渡す向きが逆だぞ、逆っ。しっかりしてくれよぉ〜。) (オイラの名前は、ワトソン。この探偵事務所に世話になってかれこれ一年くらいになる。オイラ、こう見えて人の言葉が分かるんだわ。良く犬は人間の3歳児程度の知能と言われるが、人間だって頭の良し悪しがあるよなぁ。さしずめ、オイラは天才犬ってヤツな訳だな。まぁ、人並み程度には知能があると自負している。ってオイラは一体誰に自己紹介してるんだろうか。) (まぁいい。今日は久々の仕事で主人はご機嫌の様で何よりだ。ただ、、いつもみたいに空回りしないと良いのだが。) (って、いつまで名刺交換の練習してんだっ!もうすぐ来るぞ!) 『わんっ!』 ビクッ。と反応した岩雄はワトソンに視線を向けたその時。 コン、コンっ。 事務所のドアが外側から軽く2回ノックされた。 来た。例の予約を入れてきた依頼人だ。 ん、んっ。と軽く咳払いをした後、「どうぞ。」とドアの向こう側にいる依頼人に向かって入室を促した。 ゆっくりとドアが開かれると、一人の男性が顔を覗かせた。緊張しているのか表情は少し堅いように見える。 岩雄は入ってきた依頼人と目が合うとすぐに、練習の成果を発揮する。 「ようこそ、斜岩(シャーロック)探偵事務所へ。本日はご指名ありがとうございます。担当の斜木 岩雄と申します。」 『バウッ』 (ご指名って ここはホストかっ!)
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