あなたに逢えて、本当によかった。

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 私にはヒーローがいる。それは同じクラスの男の子だった。  高校に入って、中学まではほとんど顔ぶれの変わらなかったクラスメイトが一気に変わり、知らない人ばかりの空間に入った途端、私は自分が人見知りなのだと初めて気付かされた。それでも、一学期のうちには友達もできて――向こうから話しかけてくれた――それなりにやっているが、友達は二人だけだった。 「ごめん、そこの段ボールさ、軽い方でいいから一緒に職員室まで運んでくれない?」  そう話しかけてきたのは、私の後のヒーローになる男の子だった。 「え、なんで私?」  思わずそう口にしてしまった。なぜなら、彼とは一度も話したことがなかったからだ。私の友達は、中学が一緒だったという紀美子と裕二だけだった。 「いや、今近くにいたから。ほかに頼めそうな人いないし」  たしかに、今このクラスにいるのは私たち以外は教室の隅で三人固まってゲームをしている男子だけだった。 「二回も行くのも面倒だし、迷惑でなければなんだけど」  ちょっと控えめな申し出に断る理由が思いつかなかった。そうして私たちは一緒に荷物を運ぶことになった。  隣を歩いていると、彼の名前はなんだっけ、という疑問がわいてきた。人見知りのせいか友達以外のクラスの人の名前を私はまだ全員把握できていない。でも彼はクラスで一番賑やかなグループにいる人だということは知っていた。社交性があるのだな、と羨ましく思った。 「あ、あの…名前、ごめん、覚えてなくて」  私は勇気を出してそう言った。 「あ、そうだよね、話したこともなかったし。奥村純平。苗字でも名前でも好きなように呼んで、佐伯さん」 「あたしの名前、知ってたんだ」 「クラスのみんなの名前覚えてるんだ」  さらっと話す彼は、だから人気者なんだなと思った。  二階の教室から一階にある職員室までは大した距離ではなかったけれど、往復する間に私たちは色々な話をした。彼の属するグループの二人が、今ちょっといい感じなんだよな、とか、いつも紀美子と裕二と一緒にいるよね、とか。彼が話しかけてくれたお陰で話は弾んだ。そうして仲良くなったことで、私は彼の属するグループの仲間とも仲良くなることができたのだった。
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