憂鬱(律 side)

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その紙は、とあるカタログだった。シンプルながらに高級感のある写真。思わず思考が止まる。 「これは、ロ〇ズのカタログだよ。しかも5月は期間限定のクッキーセットがある」 「き、期間限定、だと……?」 「もしりっちゃんが今度の合宿に来てくれるなら、これをボクと累くんが買ってあげるよ。どう?」 何というやつらだ。俺をロ〇ズのクッキーでおびき寄せるとは……。こんな子供相手みたいな誘い文句に惑わされるもんか……。いやしかし……期間限定はかなり気になる。俺だって何ヶ月も前から目をつけていた商品なのだから。 俺が葛藤していると、さらにその会話に累が入り込んでくる。 「何なら、このム〇スナティーもセットでプレゼントするよ?」 「なっ……!ム〇スナティーなんて、高い紅茶じゃないか……!」 「もちろん、ちゃんと合宿に来てくれたら、だけど」 「くっ……汚い手を使いやがって……」 累がカタログをひらひらさせながらにやりと笑う。こいつら2人とも、絶対に俺をバカにしている。だが……高級な紅茶とクッキーをただでもらえるなんて……。自分でだってそう頻繁には買わないものなのに……。 俺の中で天使と悪魔が囁く。「そんな甘い言葉に惑わされるな」と天使が忠告し、悪魔は「とっとと引き受けてしまえ」と嗤う。…………俺は………… 「……っ、わかったよ。行けばいいんだろ?これで文句はないな?」 「やったぁ!りっちゃんありがとう!」 「律が来てくれて助かるよ!約束通り紅茶とクッキーは買っておくから!」 春斗と累が手を取り合って騒ぎ出した。この程度ではしゃぐなどお前達は子供か、と言いたいところだが、1番子供なのはこんな誘惑に負けた俺だろう……。好物には勝てない己の弱さに呆れた。 はぁ……学習合宿なんて何をすればいいんだ。まだ入学して間もないやつらに教えられることなんて、せいぜいこれまでの復習くらいだろ?普段の授業では復習なんてやらないから、いざやれと言われると内容も悩ましい。 おまけに、どうせ誰もまともに聞かないだろう。……いや、ただ1人真面目に聞きそうなやつがいる。それどころか、とんでもない行動をしそうなやつが1名。真風雫、あのアホ優等生と顔を合わせなければならない。先が思いやられるとはまさにこのことだ。またしてもため息が出た。
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