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雨の臭いがするとたちまち頭に鈍痛が走る。 いつもニコニコしてる俺が不機嫌に見えるとあからさまに周りが気を使うから、無理矢理にでもいつも通りを装うしかない。 いつもより疲れる金曜日。 なにがプレミアムフライデーだ。 あぁ、なんかダメかも、、、さっきから体がだるい。 意識が飛んでしまいそうな、、、 「大丈夫か?顔真っ青やで。」 この喋り方は原田だ。 三ヶ月前、大阪から本社に移動になっていきなり営業成績トップになった。 俺と違って要領がよくて、何か軽くて、なのにみんなに好かれてて。 俺の嫌いなタイプ。 気がつくと俺はそんな男にお姫様だっこされてた。 抵抗する力もなく、目が覚めると休憩室のベットに寝てた。 やけにスッキリしてる。 「顔色戻ったみたいやな。よかった。」 原田はずっとついててくれたようだ。 「なんか迷惑かけてごめん。」 「ごめんじゃなくてありがとうやろ。てか、初めてやなぁこうやって喋るん。」 「あぁ、そうだね。」 「経理で一番のべっぴんさん。」 「え?」 「みんな言うてるで。俺も初めてあんたの顔見たとき思った。」 なんだそれ? べっぴんさんて、馬鹿にしてるだろ。 「いっつもニコニコしてて疲れへんの?」 「別に。」 「笑ってるより、今みたいな素の顔の方が俺は好きやけど。」 、、、好き? からかわれてるのか? 駄目だ、また頭が痛くなってきた。 「大丈夫か?」 「すみませんが、出ていってもらえますか?」 言ってしまった! 「了解。でも無理したらあかんで。なんかあったら呼べよ。」 そう言って原田は出ていった。 なんか、、、俺って小さい。 助けてくれた人間に出ていけとか。 原田はなにも悪くないのに。 それからしばらくして、何故か経理と営業の合同飲み会が開催されることになった。 上が仲がいいってだけで、下の俺たちまで巻き添え。 そして俺の隣に原田。 きまずい。 彼はお構い無く普通に話しかけてくる。 「飲める方なん?」 「まぁ、普通に。」 「じゃあ今日は付き合ってもらお。」 そんなことを言いながら、彼は上司からのお酌を全部引き受けてくれた。 おかげでいつもみたいに飲まされることもなく。 まるで女扱い。 「送ってくよ。家どこなん?」 「いいです。」 「ええから、とりあえずタクシー止めるわ。」 結局一緒にタクシーに乗った。 家も近所だということが発覚し、俺は何故か彼の家に、、、。 俺は押しきられると弱い。 そして彼はしつこい。 「変な感じやわ~、きのぴーが家におるなんて。」 「きのぴー?」 「そう、木ノ下だからきのぴー。」 変なあだ名をつけられた。 「俺のことははらっちとかでええよ。」 「いや、呼びません。」 「じゃあ、淳って呼んで。」 いきなりマジな顔で近づきて来た。 「いや、呼びません。」 「そっかー、ふふふ。」 にやにやしながら彼は俺にキスをした。 、、、ん? キス!? あまりに自然な流れすぎて抵抗するの忘れてた! 「キスしてもた。ふふふ。」 いやいやいや、俺男だし! ふふふじゃない! 俺は驚きすぎて言葉にできなかった。 「俺、多分好みなんやわ。きのぴーの顔。」 そう言って彼は俺に倒れこんできて寝てしまった。 俺はとりあえず彼をベットに運び、歩いて家に帰った。 帰り道、色々冷静に分析したが彼の言動は不可解すぎた。 無理だ。 ああいう直感とかで生きてるような人間は理解できない。 そう投げ出してゴミ箱に突っ込んだ。 だけど俺はまたゴミ箱から拾ってしまうんだろう。 昔から解けない問題を放っておけないタイプなんだ。 だから知りたい。 嫌いだけど、知りたい。 彼のこと。 そんな気持ちが伝わってしまったのか、俺は彼に誘われた。 「木ノ下さん、明日空いてはります?」 笑顔の奥の彼は何を思ってるのか。 知りたい。 「空いてるけど。」 「じゃあでーとしましょ。」 「いいけど。」 初めて彼の方がビビってた。 面白い。
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