猫吸い効きます受験生

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 こうして猫合宿の前半は無事終わりました。後半は夕食後、残り2セットをやってお帰りいただこうという算段です。 「お待たせいたしました。夕食のお時間でございます」  ここからはわたくしたち仲居の出番でございます。フルコース料理にはまだ早いお年頃でしょうから、お歳に見合う献立を考えました。 「ガンバレ受験にカツ!定食でございます」  衣サクサクに揚げた大きめの豚カツをとろとろの卵で閉じ、炊きたてのご飯へ乗せた「カツ」丼。家を飛び出してから何も食べていないことに気が付いた男子中学生は、ごくりと喉を鳴らします。  冬を健康に乗りきるにはビタミンが何より大切。塩で揉んだキャベツの千切りは多めに盛り付けました。  「取り点」に語呂を合わせた鶏の天ぷらにはレモンをたっぷりかけ、小鉢には彼の好きな「カツ」オのたたき。土の力、「努力」のこもった里芋たっぷりの豚汁。 「ボリュームがすげぇ! どれも美味そう!」 「ゆっくりお召し上がり下さいね」  よく噛んで、料理を味わう。受験生にはそんな時間などありませんからね。いつも栄養補助食品やゼリーで小腹を満たしているのを、わたくしたちは見ていましたから。  サクサク、シャキシャキ、モチモチといった食感を楽しんでいらっしゃる間、食べ頃になるよう時間を測ったものの様子を見ます。うん、良さそう。 「社長、彼の様子はどうです?」  数学教師の姿で一緒に御飯を食べている社長をちょいちょいと呼び出しました。 「カツ丼は綺麗になって、そろそろ豚汁も片付きそうだよ」 「さすが食欲の中学生。では、あれをお持ちしますね」  食事の締めはデザートです。いよかんのシャーベット。いよかん、「いい予感」。ね、受験にカツこと間違いなしでしょう?  食事を終えて猫合宿の後半です。男子中学生もコツを心得てきたのか、テスト用紙を滑らせるペンの調子が上がってきたようです。 「先生、なんだか理解できたかもしれません」 「そうだろうそうだろう」  先生──社長は、解説ページを見ながら答えを丸付けするだけなので、そこは自慢げに言うところでもないとは思うのですけれど、まあ彼が喜んでいるのでよしとしましょうか。 「できたー!」 「お疲れ様。最後までよく諦めずに頑張ったね」 「先生、ベッドにダイブしてもいいですかー?」 「おう、いいぞぉ」  自室にはさすがに置けないであろう大きなふかふかベッドへ、彼はぼよんっと沈んでいきました。楽しそうで何よりです。
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