降り積もる想い

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全てのソースにはティースプーンが入っている。竜馬はタルタルソースに砂糖を足しスプーンで混ぜて口に含むけれどやはり眉間に皴が寄った。私もそれを指先に付けて舐めてみる、うん、いつもどおりおいしいよ。そうか、ソースの味自体で悩んでいるわけじゃなくてコース料理として合うかどうか、か。 「んー……コンソメは?」 「コンソメ?」 ちょうど仕込み中のその香りが漂ってきたから思ったんだけど、鼻の奥で感じる香りはぴったり合うと言っている! 一昼夜かけて作られるコンソメは、本当においしいし。 「コンソメに浸してもいいけど、ジュレにして乗せたらおしゃれだよ。お酒のつまみじゃなくてコース料理の前菜ならシンプルな味付けでいいと思う」 言えば竜馬は指を立てて振って「その通りだ」と示してくれた、そしてすぐにその作業を始める。 既に出来上がっているコンソメを僅かな量を鍋に取り、火にかけて温めると塩や胡椒なんかで味を調えてから粉ゼラチンを入れて溶かし混ぜ、小さなバットに移してから底を氷水で冷やして固めてフォークで崩し、スプーンにエビを乗せジュレを乗せ頬張った。すぐに頷き親指を立てる。 「感謝! これ、いいと思う!」 言ってそのスプーンに同じようにエビを乗せて私の口元に差し出した──わざとだ、それは私の心を試しているのか──私はためらうことなくそれを口に含む。 エビの甘みとコンソメの塩味と香りが口内に広がりおいしさを感じた──何より、竜馬がくれる熱さを。 忘れていない、あの日のキス。あんなに気持ちいいキスはあの時だけだった。もう一度くらいと願うこともあるけれど、今はもう、無理だから──せめてゆっくり咀嚼しエビを嚥下する。
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