気紛れに優しく

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 彼女の手がホットサンドに伸びて、食べかけの一切れを口元に運ぶ。ゆっくりと一口噛み切って皿に戻すと、溶けたチーズがとろりと糸を引き、赤い唇からホクロの上に垂れた。すると赤い唇からピンク色の舌が顔を出し、垂れたそれをぺろりと舐め取っていく。どんなに面白いものを見ているのか分からないが彼女の視線はスマホに注がれたままで、唇と舌だけが意思を持っているように動いていた。  唇、舌、釣られるように動くホクロ。 『!!』 「おわっ」  盗み見を注意されるようなタイミングで再びスマートウォッチがメールの着信を告げる。今度はプライベートじゃない、二宮からの仕事のメールだ。 『高速が事故渋滞で遅れそう。ブレスト先に始めてて』 (先にじゃねぇよ。ったく、二宮が仕切る番だろうが)  事故渋滞自体は本当なんだろうが二宮のことだ、慌てることも無く昼飯もちゃんと食ってから来るつもりなんだろう。 『了解 貸し1』  短く返信してハンバーガーに視線を向ける。いつまでも隣を気にしてる場合じゃない。具がこぼれないようにできるだけ平行に持ち上げて、真ん中にがぶりとかぶり付いた。 (んま)  甘辛いソースが口の中に広がった。
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