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「ごめんね、たっくん。私、尚央くんと付き合っているの。だから、たっくんの想いには応えてあげられない」
陽菜は俯きながらも、はっきりとそう言った。まるで、最初からその言葉を今日この時、伝えることを決めていたかのように。
「え……橘……?」
尚央は先程、退出していった。だが、拓眞が来る前に尚央は陽菜と会っていた。立ち上がるのを助けていた。確かに親しげには見えた。だが、それは医者と患者の関係性だと思っていた。
「私、尚央くんが好きなの」
陽菜はそう言うと、病室を駆け出していった。つい二ヶ月前まで車椅子生活を送っていたとは思えないほどの足取りだった。恐らく、尚央に会いに行ったのだろうな、と何となく拓眞は考えていた。
飾られた見舞いの花から、花弁が一片(ひとひら)落ちる。
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