story01 焦がれる想いの昇華

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story01 焦がれる想いの昇華

 二人が付き合いだしてからも、  三人で定期的に会うことは止めなかった。  それは、二人が続けたいと言ってくれたことに加え、  なにより、俺が彼女に会いたいと思っていたから。  たとえ俺の想いを、彼女に告げられなかったとしても構わない。  俺の恋慕ごときで、  これまでの縁を切ってしまうことは、  とても俺にはできないことだった。  だが、やはり仲睦まじい二人を見ることは、  俺の心を思った以上に抉ってくる。  俺は、心の機微を決して悟られぬように隠しながら、  その後も三人で会うことを続けた。  そして、心から祝福できるまで、  自分の気持ちを昇華していった。  やがて二人は、結婚を意識するようになり、  親友は、彼女にプロポーズをした。  いつもの定期的な飲み会で、  また二人の雰囲気が変わったことに気付く。  彼女は、左手の指輪をちらりと見せ、 「私たち、結婚するの」  俺にそう、嬉しそうに告げてきた。 「そうか、おめでとう。二人とも、幸せになれ」  俺は、彼女たちに心からの祝福を送った。  数日後、  親友は、彼女の両親に結婚の承諾を受けに訪れた。  その帰りに、俺の家にもやってくる。 「結婚の許しを貰った」  親友は、心底ほっとした顔をして、  彼女は、本当に幸せそうだった。  二人が帰った後、一人残された俺は、  心がぽっかり空いた状態となった。  気持ちを昇華できたと思っていたが、  そんな気になっていただけで、  其の実、まったく出来ていなかった。  その時、俺の頬を濡らすものがあった。  それは、一粒だけポロリと。  『諦め』という名の雫石。  その一粒でようやく、  俺の恋慕は流れ落ち、  彼女への想いを、昇華することができたのだった。
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