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あれから、何かについて考える時に、いつも爺ちゃんの事を思い出す。
── 爺ちゃんならどう考えるやろ?
── 爺ちゃんならどうするやろ?
それだけでは糸口を掴めない事もたくさんあるが、それは当たり前の事で、その為に父親や母親、姉ちゃん、学校の先生、友達、石津の奥さんがいてくれるのだから、何も悲観的になるような事はない。
ただ、そうして爺ちゃんの事を思うたびに、今迄とは違って、爺ちゃんを身近に感じられるようになった。
爺ちゃんはこう言っていた、爺ちゃんならこうするだろう、と玄が思う間は、爺ちゃんが玄の傍から離れる事は決してない。
爺ちゃんが死んだ時に玄が感じた様に、人が死ぬと言う事は悲しい事だし、寂しい。
母親が言ったように、生きているという事自体が、嬉しい事だというのも正しい。
でも、今こうして、死んだ爺ちゃんが自分の心の中にいて、四六時中自分を助けてくれるのだと思うと、それはそれで、物凄く嬉しい事ではないかと思うのだ。
そして玄も、いつの日か、爺ちゃんみたいな爺ちゃんになれたら嬉しいと思う。
そんな風な事を考えていると、いつでも決まって、顔はにんまりとしてくるのに、でも涙が少し流れてくる。
── おもろいこと言うやないか
窓際で息を吹き返した“がじゅまる”は、地中に於いては永遠にそうなっているのではないかと思えるほど複雑に絡まり合った根で悠然と立ち、葉っぱの少なくなった禿げ頭をくるくると撫でまわしながら、満足げに微笑した。
【メビウスの輪 ─ 完】
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