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窓際の日向ぼっこ
「レッド、寝ているの?」
窓際の日の当たる床に置いてもらったクッションの上で寝転ぶ俺の身体を、妻がポンポンと軽く叩く。
「もうすぐサチが子供たちを連れて帰ってくるわよ。……そうね、今のうちにゆっくりしていてね」
今日も元気に笑顔で家事をこなす妻。
10年前のあの日の妻の表情を思い出すと、今でもゾッとする。
妻が熱中症で倒れた時、俺からの電話でオッサンは妻の危機を察知した。
すぐに隣の家へ電話して様子を見てもらうようにお願いし、仕事を放り出して慌てて家へ帰ってきた。
妻が草むしりをしていたことを知っていた隣のおばさんは、玄関の鍵を開けたまま倒れている妻を見て状況をすぐに理解し、119番へ連絡してくれた。
そのまま救急車で搬送された妻はしばらく入院を強いられたが、後遺症も特になく、1週間もすれば元の生活に戻ることが出来た。
あの日以来俺は、スマホを操作する方法や俺の前の人生での出来事など、覚えていた事を少しずつ忘れていった。
今じゃ覚えているのは自分の前世が人間で、妻の夫、娘の父親だった事だけだ。
思えばあの日の為に、妻を救う為に俺は犬に生まれ変わり、この家に来たのではないかと思う。
前前世で徳でも積んでいたのかな。
残してしまった家族の幸せに、また自分も含めてもらえるなんて最高じゃないか。
最初は戸惑ったが、俺はこの上なく幸せだ。
俺は陽だまりの中、妻の動きの音を聞きながら眠りに入った。
くすー、くすーと寝息を立てる俺。
妻はゆっくり俺に近づき、隣に座って俺の頭を撫でた。
優しく、愛おしそうに。
妻はポケットから新しいスマホを取り出し、パスコードを押して画面ロックを解除する。
―――前の夫の誕生日6桁のパスコード。
クスっと笑い、俺の寝顔をパシャっと撮る。
「……幸せな時間をありがとうね、あなた」
(了)
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