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「今はごめん。あとで落ち着いた場所と時間で話すよ」
確かに今は、真剣な話をするには向かない状況だ。
学校が近づき、生徒の数も増えてきた。道ゆく生徒たちの話し声も大きくなり、少し騒がしい。
ふと、楽しげな声の中に、感じの悪い囁き声が紛れ込む。
「ほら、矢見さんだよ」
「隣は……若林?」
「うん。なんか付き合ってるらしいよ」
「マジで!?」
「しー! 声でかいって」
「でもさぁ矢見さんって……」
「だよね。よく付き合えるね……」
「若林は知らないんじゃない? 一年の頃は、ずっと不登校だったじゃん」
こんな感じの会話が、私にはしっかりと全部聞こえていた。噂している本人らは、ヒソヒソしているつもりなんだろうけど。
私たちに胡乱な視線を投げかけているのは、二人の女子生徒だった。斜め後ろからの四つの鋭い目が、体に刺さる。
正木は気付いているのだろうか。
チラリと彼を見てみたが、正木はまったく気付いていないようだった。ボーッとした表情で、どこか遠いところを見ている。
例の悩みのおかげで、女子たちの話は聞こえていないみたいだ。
ありがたい。私が彼女たちから良く思われていないことがわからなくて、良かった。
ちなみに、何故彼女たちが私のことを悪く言うのか。その理由については、微塵も思い当たらない。
あの二人は、別のクラスで一度も話したことはない。嫌われる理由がないのだけど——。
その時信じられない言葉が、私の頭をガツンと殴った。
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