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「隣を歩く私がいなくなっても気づかないくらい、考え事に熱中してたんだね」
「ご、ごめん。ちょっと寝ぼけてたんだ」
「別に責めてるわけじゃないよ。なんか嫌味っぽい言い方になっちゃったね。ごめん」
「いや、俺も気にしてないから……」
「何をそんなに悩んでるの? 話してほしいな。好きな人のことなら、何でも知りたいから」
結構勇気を出して言った私の言葉に、正木は赤面もせずに「うーん……」という悩ましげな声を出しただけだった。
やっぱり意識が現実に向いていない。
正木の悩んでいることが何なのかはわからないが、私は彼の頭を占めているそれに、突発的に激しい嫉妬心を覚えた。そうなってくると、俄然何が何でも聞き出してやらなければ、という使命感にも似た欲望がメラメラと湧いてきて、抑えられなくなる。
「教えてよ。正木は何が気がかりなの?」
「あれだよ。あれ。今日英語の小テストがあるじゃん? 俺英語苦手だし、まったく勉強してないから、マジで自信なくて。ちぃは確か英語得意だったよね。前テストの答案見せてもらった時、90点で目ん玉飛び出たもん。やっぱりめっちゃ勉強してるの? まあ、そりゃそうか。そうじゃなきゃ、あんな点数取れな——」
「……正木って嘘つく時は、饒舌になるんだね」
普段はモゴモゴした感じで喋ることが多いのに。
私は彼の特徴を一つ覚えた。
正木は嘘をつく時や、誤魔化す時は澱みなく話す。
文字数で表すならば、急に六行以上の文量の言葉をペラペラと喋り出すのだ。
正木は明らかに、本当の理由を隠している。それはよっぽど私に言いにくいもののようだ。
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